相続欠格・廃除
相続権を有する相続人であっても、相続に関して自己の取り分を多くしようと不正をはたらいた場合、そのような相続人に相続権を認めることは正義、公平の観点から許されません。相続欠格とは、そのような不正行為があった場合に相続権をはく奪するという制度です。民法では次の場合に相続人としての権利をはく奪することができます。これを相続人の欠格事由といいます。
欠格事由に該当する行為をした者は、特に手続等をせずとも相続権を剥奪されます。なお、欠格者は、欠格事由が該当する被相続人との関においてのみ相続権が剥奪されるだけで、他の被相続人との相続においては影響は受けません。例えば、父の相続において「欠格者」となったとしても、母の相続、祖父の相続などにおいて、相続権は残されるということです。また、欠格者は相続権を持ちませんが、その子が欠格者を代襲して相続人となることは認められています。
廃除とは、遺留分を有する推定相続人(将来相続人となる予定の者)が被相続人に対する虐待や重大な侮辱を加えた場合、あるいは推定相続人に著しい非行がある場合など、被相続人がその者の相続権を否定したいと判断した場合に、その者の相続権を消失させる制度です。相続欠格と異なり、家庭裁判所に申立て、審判によって廃除が認められることが必要です。
廃除の対象者は遺留分を有する推定相続人(配偶者、子、直系尊属まで)で、兄弟姉妹は含まれません。 遺留分を有しない推定相続人(兄弟姉妹)については、被相続人が遺言を作成し、その者への相続を認めないと書けば済むからです。
廃除が認められるかどうかは、家庭裁判所が判断するため、個々の事案ごとに、虐待や侮辱、非行の程度が相続権の剥奪という効果に見合う重大なものであったかどうかが判断されます。軽度の虐待や非行では廃除が認められないことが多いでしょう。
家庭裁判所で、廃除を認める審判が下されたり廃除を認める調停が成立すると、当該相続人はその相続権を失います。 廃除の審判が被相続人の死後になって下された場合でも、その効力は遡及し、被相続人の死亡時(相続発生時)にさかのぼって相続権を失います。
なお、 廃除は被相続人の意思を尊重するという制度ですから、被相続人が一度行った廃除を取消したいと考える場合には、いつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。廃除取消しの審判が確定すると、廃除された推定相続人はその相続権を回復します。 廃除取消しの審判が、被相続人の死後に下された場合でもその効果は遡及し、当該相続人は、相続発生当時から相続権を有していたものとして取り扱われます。
相続欠格は、故意に被相続人や他の相続人の命をおびやかしたり、遺言への干渉行為を行った相続人の相続資格を剥奪する制度です。欠格の効果は法律上当然に生じ、特段な手続をする必要はありません。
では、被相続人の意思で相続欠格者を宥恕して(赦すこと)、相続資格を回復させることはできるのでしょうか。
宥恕には否定説と肯定説、両方あります。
否定説は、相続欠格を公益的な制度侵害に対する民事上の制裁と解釈し、そうであるならば、被相続人の意思に関わりなく(宥恕の意思を示したとしても)制裁を与えるべきという立場です。
肯定説は、そもそも法が遺言という被相続人の意思を尊重する制度を定めていることを考えれば、相続においては、被相続人の財産処分の意思は最大限尊重されるべきであり、そうであるならば相続欠格者を宥恕するという被相続人の意思も最大限尊重されるべきと考える立場です。
宥恕の手続については法律上の規定はありません。
被相続人が相続欠格者の欠格事由を認識した上でこれを許し、相続人とみなすという旨の意思又は感情の表示があればよいと考えられています。 また被相続人が相続欠格事由の発生したことを知りつつ、 欠格者に対する遺贈を行った場合なども、 宥恕がなされたと評価して、 そのような遺言条項は有効であるとも考えられています。
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