法人破産における注意点
法人破産と個人の破産の違い
法人(会社)の破産の場合には、個人の場合と比べて、清算しなければならない法律関係が数多くあります。 たとえば、取引先や債権者、得意先との法律関係だけではなく、従業員との間では雇用契約が存在しています。
また、事務所や工場用地を他の方から借りている場合には賃貸借契約が存在しますし、設備のリース契約がされていることもあります。
借入れの金額やその数も、一般的なサラリーマン等とはくらべものにならないほど大きくなることもあります。
このように、法人(会社)が破産する場合には、破産手続きによって処理しなければならない法律関係が複雑になります。そのため、法人(会社)の破産の場合には、裁判所でも個人破産の場合とくらべて、審査や手続きが厳格になる場合が多いです。
もっとも大きな違いは、法人破産の場合には、原則として、裁判所が破産管財人を選任する管財事件となるということです。管財事件となるということは、破産管財人によって、破産申立て前の財産の処分状況等が調査されるということを意味します。
調査の結果、破産法上違法な行為が判明した場合には、その効力が否定されたり、代表者等の破産において免責不許可事由と判断されたりしてしまう可能性があります(下記参照)。
否認権
否認権とは、破産管財人が破産者のした財産処分行為の効力を否定する権限のことをいいます。破産管財人は、否認権を使って、本来であれば破産者の財産として債権者への配当に使われるはずだった財産を取り戻します。
たとえば、破産申立ての直前に、破産者が一部の債権者にだけ借金の支払いをしたり、破産者の財産の所有権を知人等に移動し、財産を隠そうとしていたりなどした場合、破産管財人は、上記の借金の支払いや贈与の効力を否定し、払われたお金や渡された財産を取り戻すことができます。
付き合いの深い取引先でも支払いをしてはいけない
これを、破産をする法人(会社)の立場からみると、破産をするにしても、せめて個人的に深い付き合いのある取引先にだけは、なるべく迷惑をかけないようにお金を返したい…とお考えになるお気持ちは分かります。
しかし、破産法上は、借金を返せない状況であるのに、一部のつながりの深い債権者に対してだけ弁済をすることは、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」といって、破産法のルール違反行為であるとされています。
このような行為をしてしまうと、後で破産手続きが始まって破産管財人が選任された時に、支払いを受けた取引先等が支払金額の返還請求を受けてしまい、場合によっては裁判を提起されてしまうことになります。
ですから、お世話になった方に対するご迷惑を少しでも減らしたいというお気持ちは分かりますが、特定の債権者への支払いは、かえってその相手となる方に迷惑をかけてしまうことがあります。
また、ご自身の個人としての破産手続きについても、免責手続きに当たって問題視され、場合によっては免責許可(残った借金をチャラにすること)が出来なくなってしまう可能性があります。
従業員との雇用関係の整理
破産手続きが終了すると、その法人は消滅することになります。したがって、従業員を雇っている場合には、通常、その解雇が必要となります。
従業員を即時解雇する場合には、解雇予告手当を支払う必要がありますし、場合によっては退職金の支払いが必要になることもあります。
また、賃金の請求権は、破産手続き上、一定の範囲については他の債権に優先して配当される(支払われる)ことになっていますが、実際に配当がされるかどうかは法人の財産がどのくらい残っているか等の事情によります。
従業員にとってみれば、生活の糧を失ってしまうことになるわけですから、破産をすることになった経緯や今後の手続きについて、誠意をもって説明をしておく必要があるといえるでしょう。また、離職にともなく各種手続きについても準備しておく必要があります。
もっとも、あまり早い段階で破産の予定があることを従業員に知らせてしまうと、そこから外部に情報が流出し、無用な混乱を引き起こしてしまう可能性もあります。
会社役員の役員報酬等
会社役員の役員報酬の請求権は、従業員の賃金請求権と異なり、他の債権と比べて優先的な扱いはされていません。
ですから、法人(会社)がすでに借金の支払いができない状態になった後に、役員報酬だけを払うことは、他の一部の債権者に対して偏頗弁済をおこなうのと同様、原則として許されません。
仮に支払いをした場合は、後で破産管財人によって効力が否定され、場合によっては裁判を提起されたり、会社役員個人の破産手続きにおいても問題視されたりする可能性があります。