倒産手続きと従業員への対応
従業員を雇っている会社(法人)や事業主が、破産や民事再生等の倒産手続きを申し立てた場合、当然、そこで働いている従業員もその影響を受けることになります。 雇用主としては、従業員に対してきちんと今後の説明をおこない、従業員のために必要な手続きをおこなう責任があります。
このページでは、雇用主が破産・民事再生をする場合に必要となる従業員への対応についてご説明いたします。
破産の場合
雇用主が破産する場合、その財産は破産手続きによって処分されてしまいますし、法人(会社)の場合は、法人そのものが破産手続きの終了によって消滅してしまいます。
したがって、破産手続きを選択する場合には、破産手続きの申立て前であっても、閉店や廃業などをする際に、従業員に対して解雇通知をするのが基本です。
破産手続きの開始後に、破産管財人が代わりに従業員に解雇通知をすることもできないわけではありませんが、通常は、破産申立ての前に従業員の解雇手続きを済ませておきます。
ただし、例外として、直ちに全ての従業員を解雇してしまうと破産管財人の業務に支障が出る場合には、一部の従業員をすぐには解雇しないこともあります。たとえば、売掛金の確定や請求書作成のため必要な業務が残っている場合や、在庫商品の売却のために人手が必要になる場合などです。
このような場合は、一部の従業員については、即時解雇をせずに解雇予告をするにとどめ、しばらく仕事をしてもらうケースもあります。
即時解雇する場合
従業員を即時解雇する場合には、解雇予告手当として、30日分以上の平均賃金相当額を支払わなければなりません(労働基準法20条)。
また、従業員の解雇にともなう手続きとして、離職票の作成、社会保険の届出の手続き、健康保険の任意継続手続き、または国民健康保険への切り替え手続き、住民票の徴収の異動の手続き、源泉徴収票の作成、雇用保険の請求手続きなどについて、必要な手続きをおこない、従業員への手続き説明をおこなう必要があります。
解雇予告手当を払わずにした解雇の効力
解雇予告手当を払わずにした解雇の効力について、最高裁判所は、次のとおり判断しています。
「予告期間もおかず、予告手当の支払いもしないで、労働者に解雇の通知をした場合は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過した時か、または通知後本条の解雇予告手当の支払いをした時のいずれか早いときから効力を生じる」(最高裁判所昭和35年3月11日判決)
つまり、解雇予告手当を払わずにした解雇は無効ですが、解雇予告に必要な期間を過ぎた時、または解雇予告手当を支払った時点で、解雇が有効になるということです。
ただし、この判決は、従業員側が、解雇が有効であると認めて解雇予告手当を請求する選択を取ることを否定していないと考えられています。
従業員は、破産申立てという状況のもとでは、解雇が有効であること自体を争うことはしないのが通常ですから、一般的には、解雇の有効を前提に解雇予告手当請求をすることになります(仮に、従業員が解雇を無効と主張する場合には、その従業員は休業手当を請求することになります)。
むしろ、今後の就職活動や失業保険の受給手続きのため、早く離職票を発行してほしいと言われる方が多いですから、手早く離職手続きをするようにします。
労働債権の届出の説明
未払いの労働債権がある場合には、従業員が期限内に債権届出書を裁判所へ提出しなければ、その支払いを受けられなくなってしまいます。
未払賃金等の支払いが受けられなくなってしまうと、従業員の生活に支障が生じてしまいます。使用人としては、従業員に対して債権届出書を忘れず提出するよう伝え、従業員本人が未払額を正確に把握していない場合には、その金額を計算して伝える必要があります。
また、破産者の残った財産が少なく十分な金額の支払いが受けられない場合には、独立行政法人労働者健康福祉機構の立て替え払い制度を利用できる場合があります(ただし、解雇予告手当は対象外です)。このことも従業員に説明しておく必要があります。
破産管財人も、破産債権となる労働債権を持つ従業員等に対し、破産手続きに参加するのに必要な情報を提供する努力義務があるとされていますが(破産法89条)、きちんと従業員に対して必要な説明をおこない、賃金台帳やタイムカードなの資料を破産管財人に引き継ぐことは使用人の責務です。破産手続きが長引くことにもつながる可能性がありますので、きちんと管理をする必要があります。