破産後の経営者の生活はどうなりますか?
法人破産の経営者への影響
経営する法人が破産した場合、経営者へどのような影響を与えるのかは、その経営者が法人の債務を保証していたかどうかにより変わります。
本来は、法人と経営者個人は、法律上別の人格であり、別個に権利義務の主体となります。法人の財産は法人の財産、個人の財産は個人の財産と区別されますから、法人が破産したからといって、経営者個人の財産には影響はありません。
ですから、経営者個人が法人の債務を保証していなければ、法人破産の影響は経営者個人に及びません。
ただし、多くの企業が融資を受ける際には、債権者から経営者の個人保証を求められることが通常です。経営者個人が法人の債務の保証人となっている場合、法人が破産したときには、保証人である経営者個人が返済を求められることになります。
したがって、通常は、経営者個人についても自己破産等の申し立てが必要となります。
そうすると、経営者個人の財産についても、今後の生活再建に最低限必要な財産(自由財産)以外の財産は処分しなければならなくなります。
また、保証人となるのではなく、自宅等を担保に差し入れることが求められることがあります。このように、債務を担保するために自宅等に抵当権を設定した人のことを、物上保証人といいます。
物上保証人は、本来の借主(主債務者)が債務を返済しない場合には、抵当権等の担保権を設定した財産を債権回収に取られることになります。
したがって、経営者個人が法人の債務の担保として自宅等に抵当権を設定している場合には、その対象となっている物件が売却されて債権回収に充てられることになります。
破産ですべて失うわけではありません
「破産」というと、すべての財産を取り上げられてしまうイメージをお持ちの方も多いですが、そのようなことはありません。
破産手続きは、破産をする人の経済的な立ち直りのチャンスを確保することを目的とするものです。
破産手続きの終了によって、破産した法人(会社)は消滅してしまいますが、法人の経営者個人は、これからも生活を続けていかなければなりません。
破産法では、個人(自然人)の今後の生活再建のために最低限必要な財産については、破産者の手元に残すことを認めています。この財産のことを「自由財産」といいます。
自由財産に含まれる財産には、次のようなものがあります。
- 99万円までの現金
- 差し押さえが禁止されている財産
- 破産手続き開始決定後に取得した財産
- 自由財産の拡張により所持が認められた財産
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産
差し押さえが禁止されている財産とは?
民事執行法では、以下の財産の差し押さえが禁止されています(131条)。
- 生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
- 1か月間の生活に必要な食料及び燃料
- (農業者の場合)農業に欠くことができない器具、肥料、家畜及びその飼料、並びに次の収穫まで農業を続行するのに欠くことのできない種子や苗など
- (漁業者の場合)水産物の採捕又は養殖に欠くことのできない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚、その他これに類する水産物
- (職人等の場合)業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く)
- 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
- 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
- 必要な系譜、日記、商業帳簿等の書類
- 本人又は家族の勲章その他の名誉を表章する物
- 学習に必要な書類及び器具
- 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
- 必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
- 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
ただし、これにあげられていない財産であっても、高額で売却できる財産でなければ処分されないのが通常です。したがって、こまごまとした財産が処分されることは特別の事情がない限りありません。
また、以下の債権は、差し押さえが禁止されていますので、破産手続きの影響を受けません
- 生活保護受給権
- 年金受給権
- 中小企業退職金共済受給権
など
破産手続きの開始後に取得した財産は手放さなくてよい
破産手続きの開始後の原因によって、破産手続きの開始後に取得した財産(新得財産)は、破産者の自由財産となりますので、破産手続きで手放す必要はありません。
たとえば、破産手続き開始決定の後に他の会社等へ就職し、給料を受け取った場合には、その給料は自由財産となり、破産手続き後も自由に使うことができます。
自己破産後しばらくは借金ができない
自己破産をしてから数年(5~7年程度といわれています。法律上の制限ではありません。)は、信用情報機関に事故情報(いわゆるブラック情報)の記録が残ってしまいますので、新たに融資の申し込みをしても審査に通らないのが通常です。
したがって、自己破産後しばらくは、新たに融資を受けることはできません。
自己破産をした後に再び起業をすることは何ら禁止されていませんが、融資を受けることは通常できません。
ただし、借金やクレジットカードの利用以外の取引はおこなうことができます。
現金決済ではない方法で決済をおこないたい場合には、クレジットカードを利用することはできませんが、デビットカード等を利用することは可能です。