法人破産における経営者の責任とは
法人と経営者個人は区別されるのが原則
法人(会社)と経営者個人は、法律上、別個の法人格、別個の権利義務の主体とされています。つまり、法人と経営者個人は、法律上別人として扱い、法人の借金は法人の借金、経営者個人の財産は経営者個人の財産と、区別した扱いをします。
したがって、法人が破産した場合でも、別人である経営者個人は法律上の責任を負わないというのが基本です。
また、経営にリスクはつきものですから、法人の経営に失敗して破産申立てに至ったというだけでその経営者や役員が法律上責任を負うことは、原則としてありません。もちろん、事実上、経営していた会社を倒産させたということは、経営者個人の信用にも影響はするでしょうが、法律上は、経営に失敗したからといって直ちに経営者がその責任をとらなければならないわけではありません。
ただし、どのようなケースでも経営者は一切責任を負わなくて済むかというとそうではなく、例外的に法律上の責任を追及されるケースもないわけではありません。
経営者個人が保証人となっている場合
銀行等から法人が融資を受ける際、代表取締役その他の会社役員が連帯保証人となることが要求されることがあります。特に、中小企業が融資を受ける場合には、代表者等の保証がなければ融資を受けられないことが多いと思われます。
このように法人の債務を経営者個人が保証(連帯保証)している場合、法人が借入れ等を返済できなくなったときは、経営者個人がその返済義務を負うことになります。
この場合、通常、期限の利益(分割払いの権利)が法人の破産によって失われますので、保証人・連帯保証人は、残債を一括して返済しなければならないことになります。
ですので、法人が破産する場合には通常、経営者個人についても合わせて破産申立てをする必要があります。
裁判所のルールとしても、法人が破産する場合は、代表者等の破産も合わせて申し立てなければならないとしている裁判所も多くあります。
取締役の経営責任
取締役は、法律上、会社に対して、忠実義務ないし善管注意義務を負っているとされています。
会社は、法律上、株主のものとされていますが、会社の経営は、株主が選んだ取締役が行うこととされています。中小企業の場合など、実際は株主=取締役の場合も多いですが、理論上は、株主は取締役に経営を任せ、取締役が成果を上げて利益を出したら、そこから配当を受け取ることになります。
経営を任されている取締役は、自分の好き勝手に経営をしてよいわけではなく、会社の利益を上げるために注意を払って行動しなければなりません。このことを忠実義務ないし善管注意義務といいます。善管注意義務は、善良な管理者としての注意義務の略で、簡単にいえば、普通の人に期待される注意をつくして行動しなさい、という義務のことです。
会社経営者が忠実義務・善管注意義務に違反して会社に損害を与えた場合、会社経営者は会社に対して損害賠償義務を負うことになります。
会社が破産している場合は、破産管財人が会社の代わりに損害賠償請求をおこないます。損害賠償金が支払われた場合には、会社の財産として、債権者への配当に回されることになります。
また、破産法では、会社経営者等に対する損害賠償請求を早く解決するために、「役員責任査定制度」という制度が設けられています。この制度を利用すると、損害賠償を求める裁判をするよりも簡単な手続きで、賠償責任の有無や金額等を確定させることができます。
ただし、会社の経営者には、経営に対する裁量権が認められています。
どういうことかというと、経営にはそもそもリスクがつきものですし、その時点では経営者が正しいと思ってした経営判断でも、結果として上手くいかないこともあります。将来のことは、誰にも100%予測できるわけではありません。結果として会社の経営が上手くいかなくなったというだけで損害賠償責任を認めることはできないと考えられています。
ですから、中小企業の場合、実際に会社経営者の損害賠償責任が認められるのは、法令に違反する行為をしていたり、会社の財産を私的に使い込んでいたり、誰がどう考えても無謀な契約をしたりなど、特殊なケースに限られるといわれています。
借入れ先等の第三者に対する責任
会社が破産すると、借入れ先等の債権者は貸付金を回収できなくなってしまいます。その意味で、会社経営者が経営に失敗して会社を破産させることは、第三者にも損害を与える行為といえます。
しかし、取締役の会社に対する損害賠償責任と同様に、会社経営者が結果として経営に失敗し、破産申立てに至ったというだけでは、取締役が損害賠償責任を負うことはありません。
第三者に対する取締役の損害賠償責任が発生するには、取締役が職務をするにあたり、わざと第三者に損害を与えたり(悪意)、重大な不注意(重過失)によって損害を与えたことが必要です。
したがって、詐欺的な借入れをするなど、特殊なケースでなければ、取締役が第三者に対して損害賠償責任を負うことはほとんどありません。