正当理由とは
貸主からの賃貸借契約の解約申入れ、及び、更新拒絶には、「正当理由」が必要とされています(借地借家法28条)。
同条における「正当事由」の判断要素としては以下のものがあります。
1.建物の使用を必要とする事情
2.建物の賃貸借に関する従前の経緯
3.建物の利用状況
4.建物の現況
5.財産上の給付
このうち、メインとなる判断要素は1.建物使用の必要性であり、2.から4.は服次的な判断要素となります。
また5については、最後の補完事由として位置づけられています。
以下では、これらの各項目について、具体的にどのような事情が考慮されるのかについて説明します。
1.建物の使用を必要とする事情
(1) 具体的な考慮事情
・居住の必要性
・営業の必要性
・第三者の必要性
・建物売却の必要性
・借地の明渡の必要性
・その他の付随的事情
(2) 判断の枠組み
1.使用の必要性
当事者双方の使用の必要性を比較します。
また、転貸借がなされている場合、転借人の使用の必要性も考慮に入れます。
使用の必要性のうち、「自己使用(居住)」の必要性が特に重視されます。
賃貸人の自己使用の必要性が賃借人の必要性を大きく上回る場合は正当事由が肯定されやすく、賃借人の必要性が大きい場合は正当事由が認められにくくなります。
双方の必要性に差がない場合は、他の事情(立退料の提供)などにより判断されます。
2.建物売却の必要性
賃貸人に建物を売却する必要性がある場合は、どのような目的で売却がなされるかによって判断が異なります。
一般的に、売却目的のみでは正当理由が認められにくい傾向にありますが、借金の返済や税金の支払等を理由に不動産を売却する必要性に迫られている場合などでは、正当事由が認められやすい傾向にあります。
3.借地の明渡し
借地に借地人が建物を建てて所有している場合で、借地契約が終了し、借地人が所有している建物を取り壊して土地を明け渡す必要がある場合です。
実際には、「土地の明渡義務がある」という事情のみでは正当理由が認められにくいといえます。
4.不動産の高度利用・有効活用の目的
賃貸人は不動産の固定資産税等の維持費を負担していることから、古い建物(低層の木造アパート等)を取り壊して、収益性の高い建物(高層建物やテナントビル等)に建て替える必要性があるといえます。
このような事情も、一般的には正当事由として認められています。
ただし、その補完として、賃借人に対して相当額の立退料の支払いを求められる傾向にあります。(比較的高額な立退料が支払われる場合もあります)。
2.建物の賃貸借に関する従前の経緯
(1) 具体的な考慮事情
・賃貸借契約締結の経緯・事情(どのような関係に基づいて賃貸借がなされるに至ったか)
・賃貸借契約の内容
・賃貸借契約期間中の借家人の債務履行状況
・賃料の額、改定の状況
・権利金等の一時金、各種承諾料の授受の有無、程度
・借家の経過期間(賃貸借の期間の長短)
・更新の有無、内容(合意更新か法定更新か、更新料支払の有無、金額)
・その他信頼関係破壊事実の有無(賃料滞納等)
(2) 判断の枠組み
権利金が支払われていることや、賃料額が長期間低い価格で推移していたこと、賃貸借契約締結時と大きく事情が変わったことなどは、正当事由のプラス要素となります。
他方、賃借人が長期間借家に居住していることや賃借人に賃料滞納等の義務違反があったことは、正当事由のマイナス要素になります。
賃貸借契約当時の事情を考慮して正当事由を認めた裁判例としては以下のような事例があります。
・借家契約が当初他のビルが完成するまでの一時的な使用のために締結され、その後なし崩し的に通常の賃貸借に変更された事例(東京高等裁判所昭和60年10月24日判決)
・当該建物を取り壊して新築する具体的予定のあることを知って貸借した場合(東京地方裁判所昭和61年2月28日判決)
3.建物の利用状況
・賃借人にとって必要不可欠の利用か
・建物の種類・用途に則った利用がなされているか
・建物の用法違反がないか
これらの点を考慮することになります。
4.建物の現況
・建物の経過年数・残存耐用年数
・建物の腐朽損傷の程度
・大修繕の必要性の有無
・修繕費用
・当該地域における土地の標準的使用に適った建物であるかどうか
一般的に、建物が老朽化して建て替え(取り壊し)の必要性がある場合、安全性の観点から、大半の事例で正当事由が認められています。
また、阪神・淡路大震災以降では、建物の耐震性も重視される傾向にあります(特に建築基準法の昭和56年基準を満たしていない場合は建て替えの必要性が大きくなるでしょう。)。
建物の老朽化という事実だけで正当事由を認めるには不十分な場合でも、立退料の支払によって正当事由が補完されるのが一般的です。
5.財産上の給付
「財産上の給付」とは、一般的には金銭、すなわち立退料の支払いをいいます。
そのほかに、代替の賃貸不動産を提供したり、一定期間明渡しを猶予してその間の対価を免除する、といった場合もあります。
立退料については、正当事由の補完要素とされています。
他の事情から『正当事由がある程度認められる』ということが前提であり、立退料を支払っただけでは正当事由は認められません。
立退料については次の項で解説します。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。