借主に賃料不払い等がある場合の解除
賃借人に義務違反がある場合の代表的な例として、賃料不払い、無断転貸、無断増改築、用法違反のほか、賃借人の近隣への迷惑行為等があります。
このような場合には、賃貸人は賃借人の義務違反を理由に契約を解除することになります。
解除が認められるかついては、当事者の信頼関係が破壊されたといえる程度の違反行為があったか否かが判断基準となります。
判例によれば、「信頼関係の破壊(背信行為)と認めるに足りない特段の事情」がある場合に解除が認められることになります。
これは、賃貸借契約の性質が、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることによるものです。
信頼関係が破壊されているか否かについては、事案ごとに具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。一般的な考慮要素としては以下のようなものがあります。
・賃貸借の目的物(借地か借家か等)
・賃貸借の使用目的(居住用か事業用か等)
・当事者の人間関係(家族関係か他人か等)
・賃借物の利用状況(現状のままか変更されたか等)
・賃貸人の被る不利益の有無、程度
・賃貸借解除に至った経緯
上記はあくまで一般的な事案でよくみられる考慮要素であり、どのような事情を考慮すべきかについては、事案ごとに異なります。
義務違反による解除については、違反の各類型ごとに事例や判例について詳しく説明していきますので、そちらの項をご覧ください。
ここでは、各類型における特徴や注意点等をまとめます。
1.賃料不払いの場合
賃借人の義務違反の中で多数を占める類型です。滞納期間が長くなるほど賃貸人の経済的損失が大きくなります。
賃料不払いが発生した場合、賃借人に対し、一定の期間を定めて賃料を支払うよう催告し、支払いがなければ契約を解除することを通知して催告を行います。
催告後も賃料が支払われない場合、契約を解除します。催告及び解除の意思表示は内容証明郵便により行います。
契約を解除するためには、賃借人と賃貸人の信頼関係が破壊される程度に至っていることが必要です。
ここでは、賃料不払いの回数、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が考慮されます。
仮に「1回でも賃料の支払いを怠った場合は契約を解除できる」との特約があったとしても、事実上無効とされてしまう場合が多いといえます。
2.借家権の無断譲渡、無断転貸の場合
賃貸人の知らない第三者が使用収益を行うことになるため、想定外のトラブルが生じるおそれがあります。
また、転貸が繰り返された場合、請求の相手方を特定することが難しくなり、明渡しの手続が滞る可能性があります。
一般的な賃料滞納等よりも悪質性が高い類型であることから、催告等をすることなく直ちに解除の意思表示をすることができます。
無断転貸を認識していながら転借人に賃料の支払いを請求したような場合、賃貸人が黙示の承諾をしたと評価されるおそれがあるので注意が必要です。
無断転貸・無断譲渡の事実があれば、原則として信頼関係を破壊する背信的行為があると評価されます。
例外として、賃借人側から「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情(信頼関係が破壊されていない事情)」が主張され、それが認められた場合には、契約を解除することができません。
3.賃借物件の無断増改築の場合
賃貸物件に直接変更を加える行為であるため、場合によっては物件の価値が損なわれる場合があります。
まずは、期間を定めて原状回復をするように賃借人に催告します。
期間を経過しても原状回復がなされない場合には解除の意思表示をすることになります。
賃借人の増改築の背信性が高い場合(大規模な増改築により原状回復が困難となっている場合等)は無催告解除も可能です。
無断増改築禁止の特約がある場合、その特約自体は有効となります。
無断増改築行為によって賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されている場合に解除することができます。
4.借家の用法違反の場合
居住用の建物を営業に使用した場合等は、騒音や廃棄物等により居住環境が悪化するおそれがあります。
特に集合住宅の場合、生活環境の悪化により他の賃借人が退去してしまい、多大な損失が生じる可能性もあります。
この場合、期間を定めて利用方法を改めるように賃借人に催告します。
期間を経過しても原状回復がなされない場合には解除の意思表示をします。
信頼関係の破壊が認められた場合に解除ができます。
5.迷惑行為等
他の類型と比べて近隣住民への被害の程度が大きい類型です。
嫌がらせ等の極端な行動に出る賃借人もいるため、当事者の話し合いによる解決が困難な事例も少なくありません。
迷惑行為をやめるよう催告し、守られない場合は契約を解除します。
迷惑行為が悪質である場合には、無催告解除が可能となる例もあります。
集合住宅における迷惑行為を賃貸人が放置していた場合、他の賃借人から賃貸人に対して損害賠償請求がなされる可能性もあるので注意が必要です。
賃貸人の行為が信頼関係の破壊するものと認められる場合に契約が解除できます。
集合住宅における近隣への嫌がらせ等、迷惑行為が著しい事案で、無催告解除を認めた裁判例もあります。
ただし、何がいやがらせ行為に当たるかは非常に難しい判断です(人によって感じ方に差異があります)。
6.まとめ
いずれの類型も、現に賃借人が契約上の義務に違反している以上、賃借人が速やかに対策を講じる必要性があります。
このような状況が生じた場合には、早い段階で弁護士にご相談下さい。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。