無断改築と解除
1.増改築と解除
賃借人は、賃借物の引き渡しを受けた後、返還をなすまでの間、建物を善良なる管理者の注意義務をもって保管する義務があります(民法400条)。
その義務に違反して増改築がなされた場合は契約違反となり、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。
増改築の例としては、部屋を増やしたり、別の建物を建設して付属させたりする場合があります。
単に傷んだ箇所を修理したような場合は「増改築」にはあたりません。
また、一律に全ての増改築が禁止されているのではなく、賃借人と賃貸人の信頼関係を破壊するに至っていないような場合には、解除が認められないことがあります。
賃借人の生活や営業上の都合により、一定の範囲で建物の改良や改築が必要となる場合があるためです。
増改築に関する裁判例には以下のようなものがあります。
(1) 無断増改築を理由に解除が認められた例
1.住宅として賃借した建物をネームプレート製作の仕事場とするために、賃貸人の制止を聞き入れず、タル木(屋根板を支えるため、棟から軒に渡した木)を切断して居間を土間とし、この工事と設置した機械の振動により、建物が次第に破損していくことが予想された事例 (東京高等裁判所昭和28年6月2日判決)
2.賃借人が6坪5合の付属建物を取り壊し、賃貸人の制止を無視し、更に区役所の工事中止処分、建築禁止の仮処分の執行をもあえて犯して、取り壊したのと同一部分に新しく同様の付属建物の建築をした事例(東京地方裁判所昭和30年9月30日判決)
3.時計貴金属の小売業を営む賃借人が、賃貸人の制止にもかかわらず、無断で約3尺4方の空き地に陳列窓の改造、拡張工事をなしたため、隣に居住し煙草の小売業を営む賃貸人の陳列窓の見通しが悪くなり、営業に著しい影響を与えた事例(東京地方裁判所昭和32年5月10日判決)
4.建坪約8坪の木造建物の賃借人が、それに付属させて約4坪のブロック建築様式の相当堅固な建物を、建築工事禁止の仮処分を無視して完成させた事例(大阪地方裁判所昭和38年10月10日)
5.建坪約9坪7合5勺の建物の賃貸借において、借家人が無断で3坪強の玄関、ダイニングキッチン及び1坪2合5勺の勉強室兼サンルームの増築等をなした事例 (東京地方裁判所昭和43年7月6日判決)
6.造作変更禁止の特約があるのに借家人が無断で賃借家屋の裏側に接続して木造トタン葺き中2階各階3坪を増築し、さらに裏側の賃貸人所有の空き地に建物を無断増築した事例(東京地方裁判所昭和29年9月14日判決)
(2) 解除が認められなかった例
信頼関係を破壊するに至っていないことを理由に、解除が認められなかった事例として以下のものがあります。
1.工事の規模が小さく、現状回復が可能であることを理由とするもの(東京地方裁判所昭和32年10月10日判決)
2.建物の効用を増すことを理由とするもの(東京地方裁判所昭和25年7月10日判決、東京地方裁判所昭和43年10月30日、大阪地方裁判所昭和27年6月3日)
3.借家人のした行為がやむを得ない事情にあったことを主たる理由とするもの(東京地方裁判所昭和34年6月29日判決)
4.復元が可能であることを理由としたもの(東京高等裁判所昭和26年2月26日判決、大阪高等裁判所昭和39年8月5日判決)
これら裁判例においては、増改築の規模、原状回復の可能性、建物に与える価値又は損害の程度、賃借人が増改築を必要とする事情等が総合考慮されているものと考えられます。
2.増改築禁止特約
契約時に、賃貸人と賃借人の間で無断増改築を禁止する旨の特約を結ぶ場合があります。
この特約は一般的に有効と解されます。
増改築禁止特約の効力としては、実際に無断増改築がなされた場合に、特約がない場合と比べて信頼関係の破壊が認められやすくなるということがあげられます。
判例は、賃借人がその家屋の構造を変更することを禁止する特約があった事例において、構造変更の態様が社会通念上特約にいう構造変更と認められないような場合以外は、禁止された構造変更にあたると解すべきである、としています(最高裁判所昭和29年12月21日)。
このように、増改築禁止特約がある場合は、原則として無断増改築は認められず、契約違反となると考えられます。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。