破産をすると退職金や年金などはどうなりますか?
自己破産をすると退職金はどうなりますか?
自己破産をしたからといって、勤務先から解雇されたり、または勤務先を実際に退職して退職金を債権者に支払わなければならなくなったりするわけではありません。ただし、退職金は、たとえしばらく退職の予定がなく、将来の見込みのものでしかないとしても、一定の範囲で破産する人の現在の財産に含めて評価されます。
破産手続きにおける退職金の扱いは、大きく分けて、①もう退職金が支給されている場合と、②現時点で会社などに勤めており将来の退職金の見込みがある場合の2つの場合で扱いが異なります。
すでに退職金が支給されている場合
すでに退職金が支給されている場合は、そのすべてが破産する人の財産として扱われます。そのお金がもともと退職金であったからといって特別の扱いがされるわけではありません。
つまり、退職金を現金で保管している場合には現金として、預貯金口座で保管している場合には預貯金に含めて扱います。
その結果、破産の申し立てをする時に20万円以上の現金・預貯金等がある場合には、同時廃止ではなく管財事件となります。
また、20万円以上の財産があって管財事件とされた場合には、原則99万円を超える財産については、債権者への配当に回されることになりますので、手放さなければなりません。
退職金が支給される前の場合
退職間近で近いうちに退職金が支払われる場合
勤務先からの給与や退職金は、破産をする人の生活の糧となるものですから、すべての額を取り上げることはできないとされています(破産法34条3項2号、民事執行法152条2項)。
給与や退職金の請求権のうち、4分の3は、差押禁止債権として守られることになっています。したがって、退職金のうち、残りの4分の1のみが債権者の配当に回されることになります。
退職がまだ先の場合
この場合は、仮に今すぐ退職したら退職金の金額はいくらになるかを計算し、その金額の8分の1を破産する人の現在の財産として扱うことが一般的です。
たとえば、仮に今退職した場合の退職金が800万円の場合には、800万円×8分の1=100万円の財産を現在持っているものと扱います。
その結果、原則99万円を超える金額については、債権者への配当に回されることになります。
したがって、仮に今すぐ退職した場合の退職金の金額に8分の1をかけた金額が、99万円を超える場合には、その超える部分(と同じ金額)が債権者への配当に回されることになります。
しかし、退職金は、実際に退職をしなければ支給されません。そこで、将来の退職金が99万円以上ある場合には、破産管財人と話し合いをし、退職金の8分の1に当たる金額を準備し、これを配当に回してもらう代わりに退職金債権を破産財団(配当に回す財産)から放棄してもらうことがあります。
どうして将来の退職金は8分の1で評価するの?
法律上は、退職金債権であっても配当に回さなくてもよいと決められているのは4分の3の部分のみです。
しかし、退職金は、実際には退職しなければ支給されません。現在の時点で将来退職金を受け取る見込みがあるとしても、債権者や破産管財人が破産した人を今すぐ退職させることはできませんし、将来のことは誰にも確実に予測できません。例えば、破産をした人が将来懲戒解雇等により退職金を受け取れなくなってしまう可能性は否定できませんし、勤務先が倒産してしまったり、業績が悪化してしまったりする可能性は残ります。
そこで、裁判所では、このような事情を考慮して、退職金見込み額の8分の1のみを破産する人の財産として扱うという運用を一般的にしています。
破産申立てには退職金計算書が必要
破産の申立てをする場合には、仮に今すぐ退職をした場合にいくら退職金を受け取ることができるかを記載した退職金計算書を提出する必要が原則としてあります(勤務年数などから明らかに少額の退職金しか見込めない場合には免除されることもあります)。
そこで、自己破産をするには、退職金計算書を勤務先に依頼して発行してもらう必要があります。
この際、勤務先にどのような理由を説明しようかお迷いになる方もいらっしゃいます。理屈だけからいえば、そもそも自己破産をしたことを理由に解雇をすることは違法ですから、自己破産をするために退職金計算書が必要だということを隠す必要はありません。
しかし、通常は、勤務先になるべく自己破産をすることを知られたくないという方が多いと思われます。退職金計算書は、自己破産をする場合だけではなく、住宅ローンの審査や保証人となる時の審査で提出することもあります。そこで、住宅ローンの審査や親族の保証人の審査に必要だという理由で取得することも考えられます。
自己破産をすると年金を受け取れなくなりますか?
公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)については、自己破産をしても受け取ることができます。これら公的年金の受給権は、法律によって差し押さえが禁止されています。
個人年金(民間の保険会社等で加入している年金)については、基本的に財産と評価されます。
したがって、解約返戻金を含めた財産の金額が20万円を超える場合には、同時廃止事件ではなく管財事件として扱われます。この場合に解約返戻金が原則99万円を超える場合には、破産管財人が個人年金を解約し、返戻金を債権者への配当に回すことになります。
つまり、個人年金については解約をしなければならない場合があります。
同時廃止と管財事件とは?
自己破産の手続きには、同時廃止と管財事件の2種類の手続きがあります。
法律で基本類型とされているのは、管財事件です。
管財事件では、破産申立てにより破産手続きの開始決定がされると、裁判所から破産管財人が選任されます。破産管財人は、破産申立てをした人(破産者)の財産を調査し、これを現金に換えて債権者へ配当をする役割をします。
これに対し、破産者にそもそもめぼしい財産がなく、破産管財人を付けても意味がないと考えられる場合には、破産手続きを開始と同時に終了してしまうことがあります。これを同時廃止と呼びます。個人の破産の場合は、多くの事件が同時廃止事件となります。
同時廃止事件と管財事件の大きな違いのひとつは、必要となる予納金の金額です。
予納金とは、破産手続きを進めるに当たって必要となる費用をあらかじめ裁判所に提出するものです。予納金を納めない場合には、破産申立てが却下されます。
同時廃止事件では、自己破産の申し立てのためにかかる金銭はわずかです。これに対し、管財事件の場合には、少額管財の場合でも20万円程度の予納金が必要となります。
20万円以上の財産があると管財事件となる
裁判所では、同時廃止事件と管財事件をどう振り分けるかの基準が色々設けられていますが、そのひとつに、破産申立ての時点で20万円の財産があるかどうか、というものがあります。破産申立人の財産が20万円を超える場合には、予納金の準備が必要となる可能性があります。