離婚後に破産する場合の注意点
借金問題の原因にはいろいろなものがありますが、離婚が原因で経済状態が苦しくなってしまうこともあります。また、逆に、借金問題が原因で夫婦関係が上手くいかなくなってしまうこともあります。
このページでは、離婚と破産の問題について解説します。
不相応な財産分与等は財産隠しと疑われることも
離婚にともない、財産分与や慰謝料、養育費などの支払いがされることがあります。
破産手続きの申立てに近い時期に離婚し、上記の支払いが行われた場合、その金額が高額な場合などには、財産隠しと疑われてしまうことがあります。
財産隠しを疑われた場合には、破産管財人が付く管財事件となる可能性があります。つまり、破産手続きをするための予納金を多く準備しなければならなくなってしまうことがあります。
また、破産管財人が否認権という権限を行使し、財産分与等の効力を否定することがあります。
また、離婚に仮装して財産隠しをした場合などには、免責不許可事由と判断され、借金の支払い義務を免れることができなくなってしまうおそれもあります。さらに悪質と判断された場合には、「詐欺破産罪」として処罰されることさえあります。
否認権とは
否認権とは、破産者が破産手続きの目的達成の妨げとなるような行為をしたときに、破産管財人がその効力を無効とし、破産財団をあるべき姿に戻すための制度をいいます。
債権者への支払いを滞納しているのに、どうせ債権者にとられるならと親戚が友人などに自分の財産を無償で贈与して財産を減らすなどの行為は、否認権の対象となることがあります。
財産分与
財産分与は、実質的に夫婦2人が協力して築いた財産を離婚にともなって清算するという側面と、また片方の離婚後の生活の援助という側面があると考えられています。
財産分与は、常識的な範囲で行われていれば否認権の対象とはなりませんが、財産分与をよそおって、離婚する妻(夫)に対し、自分の財産状況に見合わない過大な財産を譲り渡した場合などには、否認権の対象となり、効果が否定されてしまうことがあります。
慰謝料
破産をする人が、離婚にともない慰謝料を払うことがあります。慰謝料請求権は、他の借り入れに関する請求権と同じように扱われますので、離婚の慰謝料だからといって、特別扱いは通常されません。
したがって、財産分与と同じく、慰謝料を支払う約束の内容が、財産状況に見合わない過大なものである場合には、破産管財人によって効力を否定される可能性があります。
また、すでに慰謝料の支払いが済んでいる場合であって、慰謝料を受け取った時期が破産手続きの申立てに近い日である場合などには、偏頗弁済として、否認権の対象となることもあります。
偽装離婚のつもりがなくても要注意
たとえ実際には偽装離婚をするつもりがなかったとしても、離婚のすぐ後に自己破産を申し立てる場合には、偽装離婚と疑われないような注意が必要です。
お金の動きや生活の状況についてきちんと説明できるような資料を準備して裁判所の疑いを払しょくしなければ、管財事件とされてしまうこともあります。
自己破産をしても養育費を支払う義務は消えない
自己破産は、借金等を無かったことにして生活を再建するための手続きです(正確には、自己破産をしただけでは借金が無かったことになるわけではありませんが、自己破産の手続きと一緒に行われる免責という手続きにより、免責許可決定が出ると、借金等の支払い義務が免除されることになります)。
しかし、免責許可決定によっても免責されない(義務を免れることができない)とされている請求権があります。
このような請求権を、「非免責債権」と呼びます。たとえば、税金等の支払い義務が非免責債権とされています。
そして、養育費の支払い義務も、破産法253条1項4号により、免責を受けても免除されない非免責債権であるとされています。
養育費は、子どもの生存や幸福のため必要不可欠なものと考えられているからです。
したがって、自己破産をしても養育費の支払い義務から解放されることはありませんし、自己破産をして差し押さえ等を止めようと思っても、その差し押さえが養育費の不払いを原因とするものである場合には、自己破産をしても影響がありません。
もし、離婚をした後に財産状況が悪化するなどし、養育費の支払いが難しくなった場合には、養育費減額を求める調停を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
離婚をしなければ配偶者も取り立てを受ける?
破産申立ての前に離婚をしておかなければ、夫・妻が債権者からの取り立てを受けるかもしれないと誤解されている方もいらっしゃいます。しかし、連帯保証人となっていなければそのようなことは法律上ありません。
逆に、夫・妻が連帯保証人となっている場合には、夫婦が離婚したからといって自動的に連帯保証人でなくなるわけではありません。したがって、このような場合には、取り立てを回避する目的のみで離婚をすることには意味がありません。
債権者は、主たる債務者が自己破産をした場合、連帯保証人に対して借り入れ等の返済を求めるのが通常ですが、連帯保証人が支払いをすることができない場合には、連帯保証人自身も自己破産等の債務整理を検討しなければなりません。
なお、夫婦が一緒に自己破産を申し立てる場合には、裁判所に提出する書類の中に共通のものが出てくることがありますので、別々に申し立てをするよりも手間がかからないで済むこともあります。