給与の差し押さえ
金銭を支払う義務を負う人(債務者)がその義務を果たさない場合、支払いを受ける権利がある人(債権者)は、判決書などを得て、債務者の財産から強制的に回収をすることができます。この債務者の財産から強制的に債権回収を行う裁判所の手続きを、「強制執行」といいます。
差し押さえも、強制執行の手続きのひとつです。
差し押さえというと、見知らぬ職員が自宅にやってきて、自宅の財産に差し押さえの紙を貼りに来るイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。そのような強制執行もあることはあるのですが、実際に多いのは、預貯金口座や給与を差し押さえ、そこから債権回収を図る方法(債権執行)です。
給与のすべてが差し押さえられるわけではない
給与の場合には、それが全額回収されてしまうと、債務者の生活の手段がなくなってしまいます。
そこで、法律上は、給与のうち4分の3は、差押禁止債権とされていて、給与を受け取る人に保障されています。 とはいえ、給与の4分の1が取り上げられてしまっては、生活がかなり苦しくなってしまうことが通常です。
※婚姻費用や養育費の未払いのために差し押さえを受けた場合には、2分の1のみが差押禁止債権とされます。
給与の差し押さえは勤務先にも知られる
給与の差し押さえがされると、第三債務者(差し押さえを受けた人へ支払いをしなければならない者のこと)である勤務先にその通知が届くことになります。
給与の差し押さえを受けたことを理由に解雇をすることはできませんが、勤務先としては、給与の差し押さえがあると、その一部を債権者に払わないといけませんのでその分の事務負担を負うことになります。
給与の差し押さえを解除するには
破産手続きを申し立てると、給与の差し押さえを含む強制執行の手続きを中止したり、失効させたりすることができます
破産手続き等をせずに差し押さえを解除してもらうには、基本的に、未払いになっている金額をすべて返済したり、債権者が納得するような返済計画を立てて差し押さえを解除してもらったりする必要があります。債権者としても、差し押さえをするまで何度も督促をしていますし、費用や手間をかけて手続きをしていますから、簡単には差し押さえを解除できません。
給与の差し押さえ等を受けて生活が苦しくなっている場合には、破産手続きの申立て等の債務整理を検討する必要があります。
破産手続開始決定の効果
破産手続きは、破産者の一般財産(破産財団)を、平等にそれぞれの債権の金額に応じて分配するための手続きです。個別の債権者が強制執行手続きを進めてしまうと、このような破産手続きの目的が達成できなくなってしまいます。
そこで、破産手続開始決定がされると、破産債権の回収のために破産財団に属する財産に対して各債権者が強制執行をすることが禁止されます(破産法42条1項)。
さらに、すでに破産財団に属する財産に対する強制執行がされている場合には、その効力が失われます (破産法42条2項本文)。破産管財人は、すでにされた強制執行手続きを取り消して、財産の処分や配当の手続きを進めることになります。
したがって、すでに給与債権に対する差し押さえがされている場合には、破産管財人が給与債権に対する差し押さえの執行の取消しを申し立てることになります。
同時廃止事件の場合
同時廃止事件の場合、通常は、破産申立てと同時に免責許可の申し立てをしているので、免責手続きの中で既に行われている強制執行手続きが中止されます(破産法249条)。その後、免責許可の決定が確定すると、借金の支払い義務がなくなりますので、中止していた強制執行が失効することになります(破産法249条2項)。
そのため、免責許可決定の確定までの間は差し押さえられた給与に当たる額を受け取ることができず、勤務先がその間に給与相当額の金額を保管または供託し、免責許可決定の確定後に破産者へ金銭が支払われることになります。
支払えないからといって放置しない
これまでご説明したとおり、いったん給与などの差し押さえを受けてしまうと、差し押さえを解除してもらうのは大変です。自己破産の申立てをした場合でも、強制執行が止まるまでには一定の時間がかかってしまいます。
差し押さえを受けるまでには、債権者から何回も督促があったはずですし、裁判所から支払督促や訴状等が届いていることが通常です。
借金の支払いができないからといって放置してしまうと、給与等の差し押さえを受けて、ますます生活が苦しくなってしまうおそれがあります。早めに専門家に相談するなどの対応を検討したほうがよいでしょう。