1.労働者の保護と労働者死傷病報告
建設業では、危険な現場作業が必要となることや、チェーンソーなどのように労働者の身体に健康障害を発生させたり、取り扱い方法を誤ると労働者の生命や身体を損なうおそれのある機械を使用することもあります。そのため、他の業種に比べて、重大な傷害や死亡を伴う事故が多くなっています。
労災が起きた場合に最も重要なことは、被害を受けた労働者の安全を確保することであるのは言うまでもありません。怪我の状態を確認し、病院に搬送するなどの措置をとりましょう。事故の状況によっては消防署などに通報する必要がありますし、ご家族への連絡も速やかに行いましょう。
また、労働災害等の原因により労働者が死亡または休業した場合、所轄労働基準監督署長に「労働者死傷病報告」を提出する必要があります。労働安全衛生規則97条1項は、「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」と規定しています。これを怠ると「労災隠し」として処罰の対象になります(詳細は「建設業界における不祥事⑦(労災)」をご確認ください)。
なお、労働者死傷病報告書は、労働災害ではない場合や、労災保険の請求をしない場合であっても、労働安全衛生法97条1項に該当する場合に提出が義務付けられているので注意が必要です。
2.事故報告書
事業場等で発生したのが火災や爆発などの事故であった場合には、「事故報告書」を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生規則96条1項)。事故報告の対象として規定されている事故の一例は以下のとおりです。
(1)事業場内の火災または爆発
(2)事業場内の遠心機械、研削といしその他高速回転体の破裂の事故
(3)ボイラーの破裂、煙道ガスの爆発
(4)クレーンの逸走、倒壊、落下又はジブの折損
(5)移動式クレーンのワイヤロープ又はつりチェーンの切断
(6)デリックの倒壊またはブームの折損
(7)エレベーターの昇降路等の倒壊または搬器の墜落
(8)建設用リフトのワイヤロープの切断
(9)簡易リフト搬器の墜落
(10)ゴンドラの逸走、転倒、落下またはアームの折損、ワイヤロープの切断
事故報告書の提出を怠ったり、虚偽の報告をした場合も、労災隠しとして処罰されます。また、事故報告書は、労働者死傷病報告と異なり、労働者への傷病が伴わない場合でも提出する必要があります。
事故報告書の提出が必要となる事故で、かつ、労働者死傷病報告書の提出が必要となる事故である場合には、その両方を提出する必要があります。なお、事故報告書と労働者死傷病報告書を同時に提出する場合は、重複する部分の記入は不要です(労働安全衛生規則96条2項)。
3.労災保険その1
(1)労災保険とは
「労災保険」とは、業務上の事由(業務災害)又は通勤(通勤災害)による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。
正社員からパートタイマー、アルバイトに至るすべてが対象者となり、働く人が安心して労働できる環境づくりの一環で発足されました。保険給付の内容も、医療費、休業損害の一部、遺族に対する給付など様々なものがあります。
(2)業務災害とは
業務災害とは、業務中に労働者がケガをしたり、疾病や後遺障害の発生また死亡した場合を指します。業務が原因となった災害ということで、業務と労働者の傷病等との間に一定の因果関係が認められる必要があります。
業務災害にあたる典型例は、事業主の支配・管理下で業務に従事している場合です。例えば、所定労働時間内や残業時間内に事業場内で作業中、ベルトコンベアーなどの機材によって怪我をした場合がこれにあたります。反対に、業務時間内や残業時間内であっても、労働者が就業中に私的行為を行ったり、業務を逸脱する恣意的行為をしたところ、それらが原因となって災害を被った場合は、業務と労働者の傷病等との間に因果関係は認められず、労災給付の対象とはなりません。
業務災害に当たるか否かでよく問題となるのは、出張などのように、事業主の支配にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合です。
この場合、事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づいて事業主の指揮命令を受けて仕事をしていることになるので、事業主の支配下にあると考えられています。したがって、仕事の場所はどこであったとしても、私的行為を行うなど特段の事業がない限り、業務災害と認められます。
4.労災保険その2
(3)通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤途中に発生したケガや病気、死亡等を指します。ここにいう通勤とは、就業に関し、
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
を合理的な経路及び方法により行うことをいいます。
通勤時のみではなく、退勤時も通勤災害の対象に含まれます。しかし、仕事終わりに食事や飲みに行くなど、移動の経路を逸脱した場合や、移動を中断した場合については、通勤災害には該当せず、労災給付の対象外となります。
(4)精神障害の労災認定
近年、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した精神障害についての労災請求が増え、その認定を迅速に行うことが求められています。このような精神障害の労災請求については、
ア.認定基準の対象となる精神障害を発病していること
イ.認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
ウ.業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
という要件を満たせば、原則として労災請求が認められます。
以下、詳細ページのご案内です。
- 建設業の担い手と法律問題①(ゼネコン)
- 建設業の担い手と法律問題②(道路会社)
- 建設業の担い手と法律問題③(ハウスメーカー)
- 建設業の担い手と法律問題④(橋梁メーカー)
- 建設業の担い手と法律問題⑤(設計事務所)
- 建設業の担い手と法律問題⑥(下請け業者)
- 建設業の担い手と法律問題⑦(労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑧(技術者制度
- 建設業の担い手と法律問題⑨(外国人労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑩(女性労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑪(中高年労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑫(建設現場のメンタルヘルス
- 建設業の担い手と法律問題⑬(労働者の解雇
- 建設業の担い手と法律問題⑭(リスクアセスメント
- 建設業の担い手と法律問題⑮(安全衛生教育
- 建設業の担い手と法律問題⑯(労働災害等が発生した場合の対応
- 建設業の担い手と法律問題⑰(就業規則
- 建設業の担い手と法律問題⑱(建設廃棄物の処理
- 建設業の担い手と法律問題⑲(安全配慮義務
- 建設業の担い手と法律問題⑳(建設業における元方事業者の義務