1.建設業における職場環境とメンタルヘルス
これまでのページでご説明させていただいたとおり、建設業界では人手不足の問題が深刻です。そのため、せっかく労働者を雇用できでも、職場環境やメンタルヘルスが原因で建設業から離れてしまっては元も子もありません。また、建設業の労働者の多くが就労する場は建設現場であり、期間な現場で過酷な肉体労働に従事しているため、他業種に比して、過労死や過労自殺の割合が多くなっています。
こうした状況を踏まえ、労働安全衛生法71の2では、快適な職場環境の形勢を事業者の努力義務としています。また、同法71条の3の規定により、「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(快適職場指針)などが政府から公表されています。
また、労働安全衛生法66条の10により、違反した場合の罰則はありませんが、一定の職場におけるストレスチェックが義務化されています。
このページでは、建設業における職場環境とメンタルヘルスについてご説明させていただきます。
2.快適な職場環境の整備
労働安全衛生法71条の2では、事業者に対して、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の4つの措置を継続的かつ計画的に講ずる努力義務を課しています。
(1)作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
(2)労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
(3)作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
(4)前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
そして、同法71条の3において、厚生労働大臣は、上記の事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする、と定めています。
快適職場づくり関連法令としては受動喫煙防止対策が有名ですが、建設業においては「建設業における快適職場形成の推進について」(平成7年9月26日基安発第13号)という通達が重要です。この通達は、建設工事現場は、ほとんどが数次の請負関係により構成されていること、単品受注生産のため作業の態様が一定でないこと、屋外での作業が主であること等の要因を踏まえた上で、快適職場形成の円滑な推進を図るためのものです。
たとえば、上記(2)に関連するものとして、「高熱トンネル作業、充電部直接接触作業(活線作業)及び近接作業、溶接溶断作業、アスファルト舗装、熱処理等の作業」への対策例として、「作業の遠隔化、冷房設備の設置」などを挙げています。
また、上記(3)に関連するものとして、「休憩室等の確保」への対策例として、「作業場所に隣接する場所に休憩室の設置、臥床できる設備の設置、ゆとりあるスペースの確保、男女別の休憩室の設置」を挙げています。
3.ストレスチェック
2015年10月の労働安全衛生法の改正により、職場におけるストレスチェック制度がスタートしました。制度の目的は、労働者が自身のストレス状況を見直すことでメンタルヘルスの不調を未然に防ぐこと、また、事業者が労働者のストレス状況を把握することで職場環境の改善につなげることなどです。
ストレスチェック制度は「常時労働者が50人以上いる事業場」の義務として定められています。そのため、労働者の入れ替わりが頻繁で、事業場の規模も小規模であることが多いです。そのため、建設業者はほとんどの場合、「労働者が常時50人以上の事業場」という要件から除かれることになります。
しかし、2016年12月16日に公布された「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」(建設職人基本法)では、メンタル対策の促進に関する規定が置かれています。
このように、職場におけるストレスチェックの重要性が注目されてきたことに伴い、建設業労働災害防止協会(建災防)は、建設現場におけるメンタルヘルスと職場環境改善対策として「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック」という、建設現場の統括管理体制の中で実施する自主的な取組みを促しています。
4.建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック
(1)建災防方式健康KY
建災防方式健康KY活動(健康KY)とは、職長から各作業員に対し、睡眠(よく眠れたか?)、食欲(おいしく食べたか?)、体調(体調はよいか?)といった3つの問いかけと姿勢や表情などの観察を毎日繰り返し行い、日々の体調の変化を把握する取組みです(なお、KY活動とは、危険予知活動のことです)。
すでにKY活動が実施されている現場でも、健康KYを組み込んでKY活動を実施することで、より効果的なKY活動に繋がります。
(2)無記名ストレスチェック
無記名ストレスチェックとは、安全朝礼等、現場に従事する全員(元請、下請を問いません)が集合する場で一斉に実施するもので、その分析結果を踏まえて、より働きやすい職場環境を実現するための取組みです。工期内に複数回実施され、その修正分析結果を活用して働きやすい職場環境をつくるのが目的です。
現場での作業の状況(担当している仕事の量など)、最近1か月の健康状況、周囲の人間関係(気軽に話ができるかなど)について回答する簡易的なストレスチェックで、5分から10分程度で実施することが可能です。
テストの実施だけではなく、分析結果をもとに、職場環境の改善につなげることも大事です。ストレスチェックと職場環境の改善を繰り返すことで、よりよい職場環境に繋げましょう。
(3)まとめ
ストレスチェックと職場環境の改善は、従業員のメンタルヘルスのために必要不可欠です。従業員のメンタルヘルス改善のため、どのような方法を取ればよいかお悩みのお客様は、弊所にご相談ください。
以下、詳細ページのご案内です。
- 建設業の担い手と法律問題①(ゼネコン)
- 建設業の担い手と法律問題②(道路会社)
- 建設業の担い手と法律問題③(ハウスメーカー)
- 建設業の担い手と法律問題④(橋梁メーカー)
- 建設業の担い手と法律問題⑤(設計事務所)
- 建設業の担い手と法律問題⑥(下請け業者)
- 建設業の担い手と法律問題⑦(労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑧(技術者制度
- 建設業の担い手と法律問題⑨(外国人労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑩(女性労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑪(中高年労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑫(建設現場のメンタルヘルス
- 建設業の担い手と法律問題⑬(労働者の解雇
- 建設業の担い手と法律問題⑭(リスクアセスメント
- 建設業の担い手と法律問題⑮(安全衛生教育
- 建設業の担い手と法律問題⑯(労働災害等が発生した場合の対応
- 建設業の担い手と法律問題⑰(就業規則
- 建設業の担い手と法律問題⑱(建設廃棄物の処理
- 建設業の担い手と法律問題⑲(安全配慮義務
- 建設業の担い手と法律問題⑳(建設業における元方事業者の義務