1.リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、職場の潜在的な危険性または有害性を見つけ出し、これを除去・低減するための手法です。
労働安全衛生法28条の2では、建設業などの事業場の事業者に対して、事業者が講ずべき具体的な措置のほか、事業者に職場における危険性又は有害性等の調査及びその結果の基づく対策の実施を求めており、具体的な進め方についても厚生労働省から指針が示されています。
リスクアセスメントの目的は、職場にあるリスクの現状とそれに対する既存対策の適否とを知って、「災害に至る危険と健康障害の要因を可能な限り取り除いて、作業に関連する災害と健康障害が生じないように確保して、快適な職場にすること」にあります。特に、建設業は、重層的な下請構造のもと、現場ごとに元請業者や現場作業にあたる下請業者が変わることから、作業従事者同士のコミュニケーションが不足しがちになるなど、特有の問題があります。
このページでは、建設業界におけるリスクアセスメントの実施方法についてご説明させていただきます。
2.リスクアセスメントの導入
(1)実施体制の構築
リスクアセスメントを事業場に導入し実施するために重要なことは、リスクアセスメントの導入について、経営のトップ自ら、従業員や関係者に自ら意思として「リスクアセスメントを行う」ことを宣言し、周知することです。これにより、職場全体の安全衛生のリスクに対する共通の認識を持つことができるようになります。
その上で、事業場や工場の総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者等にリスクアセスメントの実施・管理をさせる必要があります。また、実際に現場をよく知っている職長等に協力を求めることも必要不可欠です。
(2)情報の入手
リスクアセスメントを実施する前提として、実際にどのような危険性や有害性が存在するのか分からなければ、対策を講じようがありまあせん。そのため、作業標準、作業手順書、仕様書などの取得に加え、ヒヤリハット事例(労働災害を伴わない危険な事象)、類似災害情報等を作業者に報告させる仕組みを作りましょう。
3.リスクアセスメントの手順
厚生労働省は、リスクアセスメントの実施について、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月10日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第1号)を公示しています。この指針によると、リスクアセスメントは、以下の4つの手順により行うべきとされます。
(1)作業場における「危険性又は有害性」の特定
想定される作業単位で危険性又は有害性を特定します。機械・設備、原材料、作業行動や環境などについて、過去に危険な事象が生じた場合はもちろんのこと、ヒヤリハット事例のあった場合も考慮し、労働災害の発生が合理的に予測できる危険性または有害性を特定することが重要です。
(2)特定された危険性又は有害性ごとのリスクの見積り
特定した危険性または有害性ごとに、「災害になる可能性」と「災害になったときの怪我の程度」の組み合わせでリスクを見積もります。見積りの方法には様々な手法がありますが、災害になる可能性と怪我の程度をいくつかの段階に区分し、マトリクス表を作成したり、数値化した表を作成する等が考えられます。
(3)そのリスクの大きさに基づく対策の「優先度」の決定、及び、「リスクの除去又は低減の措置」の検討
リスクの見積りにより決定された優先度に従い、優先度の高いもの(災害発生の可能性が高く、かつ、災害の重篤性が高いもの)からそのリスクを低減させる措置を検討します。
リスクを低減させる措置は、以下の順に検討します。
ア.本質的対策(危険作業自体をなくす、計画を変更することで危険作業自体を減らすなど)
イ.工学的対策(作業台の使用などの設備的対策)
ウ.管理的対策(安全衛生教育や作業の訓練など)
エ.保護具(保護手袋の使用など)
また、低減措置を実施してもなおリスクが残る場合(残留リスク)、残留リスクに対処することも重要です。
(4)低減措置の実施
検討したリスク低減対策をリスクアセスメント担当者等(または安全衛生委員会等)による会議で審議し、事業場としてリスク低減対策の実施上の優先順序を判断し、低減措置を実施します。
4.リスクアセスメント実施後の対応
低減措置を実施したらそこでリスクアセスメントが終了する、というわけではありません。実施した低減措置に効果があれば、同様の作業を行う場合、同じ低減措置を使用することができます。また、低減措置が効果的ではなかった場合、問題点を振り返ることで、さらなる安全衛生環境の向上につなげることができます。
「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、事業者が(1)洗い出した作業、(2)特定した危険性または有害性、(3)見積もったリスク、(4)設定したリスク低減措置の優先度、(5)実施したリスク低減措置の内容を記録することを示しています。リスクアセスメントを実施した場合、結果は必ず記録化し、安全衛生に対するノウハウを蓄積しましょう。
以下、詳細ページのご案内です。
- 建設業の担い手と法律問題①(ゼネコン)
- 建設業の担い手と法律問題②(道路会社)
- 建設業の担い手と法律問題③(ハウスメーカー)
- 建設業の担い手と法律問題④(橋梁メーカー)
- 建設業の担い手と法律問題⑤(設計事務所)
- 建設業の担い手と法律問題⑥(下請け業者)
- 建設業の担い手と法律問題⑦(労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑧(技術者制度
- 建設業の担い手と法律問題⑨(外国人労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑩(女性労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑪(中高年労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑫(建設現場のメンタルヘルス
- 建設業の担い手と法律問題⑬(労働者の解雇
- 建設業の担い手と法律問題⑭(リスクアセスメント
- 建設業の担い手と法律問題⑮(安全衛生教育
- 建設業の担い手と法律問題⑯(労働災害等が発生した場合の対応
- 建設業の担い手と法律問題⑰(就業規則
- 建設業の担い手と法律問題⑱(建設廃棄物の処理
- 建設業の担い手と法律問題⑲(安全配慮義務
- 建設業の担い手と法律問題⑳(建設業における元方事業者の義務