1.元方事業者の義務
発注者から仕事を受注した事業者が、その仕事を他の事業者に下請けに出すことは、製造業(電気機械器具など)、建設業、造船業、鉄鋼業、情報通信業などで一般的に行われています。特に、建設業においては、工事全体の総合的な管理監督機能を担う元請のもと、中間的な施工管理や労務の提供その他の直接施工機能を担う1次下請、2次下請、さらにそれ以下の次数の下請企業から形成される「重層下請構造」になっている場合が多いです。
重層的下請構造は、必ずしも悪いことではありません。工事内容が高度化したことにより、建設業内でも専門化・分業化が進んでいるため、必要な機器や工法の多様化への対応等の必要から、重層的下請構造が合理的な場合もあります。
しかし、重層的下請構造は、施工に関する責任や役割が曖昧になるなど、問題点もあります。また、下請けによって行われる仕事は、一般的に有害性の高いものが多くなっています。
そこで、労働安全衛生法(労安法)は、最初に注文者から仕事を引き受けた事業者(元方事業者)に対し、以下の義務を負わせています。
(1)関係請負人とその労働者が、労働安全衛生法の規定と同法に基づく命令に違反しないために必要な指導を行うこと(労安法29条1項)
(2)関係請負人とその労働者が、労働安全衛生法の規定と同法に基づく命令に違反している場合、是正に必要な指示を行うこと(労安法29条2項)。なお、関係請負人とその労働者は当該指示に従う義務を負います(労安法29条3項)。
また、建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊するおそれのある場所等において、関係請負人の労働者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければなりません(労安法29条の2)
2.元方事業者による建設現場の安全管理指針
建設業の現場において、安全管理水準の向上と労働災害の防止を目的として、「元方事業者による建設現場安全管理指針」(平成7年4月21日基発第267号の2)が定められています。同指針には、元方事業者が実施することが望ましい安全管理の具体的内容が記されています。
(1)安全衛生管理計画の作成
(2)過度の重層請負の改善
(3)請負契約における労働災害防止対策の実施とその経費負担者の明確化など
(4)元方事業者による関係請負人とその労働者の把握
関係請負人に対する安全衛生指導を適切に行うため、関係請負人に対し、請負契約の成立後速やかにその名称、請負内容、安全衛生責任者の氏名、安全衛生推進者の選任の有無及びその氏名を通知させ、これを把握しておきましょう。
(5)作業手順書の作成
(6)協議組織の設置・運営
統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者又はこれらに準ずる者、元方事業者の現場職員等を入れた協議組織をつくり、建設現場の安全衛生管理の基本方針、目標、その他基本的な労働災害防止対策を定めた計画、安全衛生教育の実施計画等を協議しましょう。
(7)作業間の連絡・調整
(8)作業場所の巡視
(9)新規入場者(新たに作業を行うことになった労働者)教育
(10)新たに作業を行う関係請負人に対する措置
(11)作業開始前の安全衛生打合わせ
(12)安全施工サイクル活動の実施
(13)職長会の設置
3.特定元方事業者の義務
特定事業を行う元方事業者のことを「特定元方事業者」といいます(労安法15条1項)。特定事業とは「建設業」「造船業」の2つの事業です。
特定元方事業者は、同一の場所において特定事業に従事する労働者(関係請負人の労働者を含む)に生じ得る労働災害を防止するため、以下の事項について必要な措置を講じる義務を負います(労安法30条1項)。なお、特定元方事業者も元方事業者であることに変わりはないので、特定元方事業者も先述した元方事業者が負うべき義務を負っています。
(1)協議組織の設置・運営
協議組織には、特定元方事業者及びすべての関係請負人が参加しなければなりません。また、定期的に会議を開催する必要があります(労働安全衛生規則635条)。
(2)作業間の連絡・調整
(3)作業場所の巡視
作業場所の巡視は毎作業日に少なくとも1回行わなければなりませんまた、関係請負人は、巡視を拒み、妨げ、又は忌避してはなりません(労働安全衛生規則637条)。
(4)関係請負人が行う労働者の安全または衛生のための教育に対する指導・援助
(5)仕事の工程や作業場所における機械・設備等の配置に関する計画の作成と、機械・設備等を使用する作業に関して関係請負人が講ずべき措置についての指導
なお、この義務を負うのは特定元方事業者のうち、建設業の特定元方事業者のみです(労働安全衛生規則638条の2)。
(6)その他労働災害を防止するために必要な事項
「必要な事項」に含まれるものとして、クレーン等の運転についての合図、事故現場等の標識、有機溶剤等の集積場所、警報、避難等の訓練の実施方法を統一することや、これらを関係請負人に周知させることなどの行為が挙げられます(労働安全衛生規則638条の4など)。
以下、詳細ページのご案内です。
- 建設業の担い手と法律問題①(ゼネコン)
- 建設業の担い手と法律問題②(道路会社)
- 建設業の担い手と法律問題③(ハウスメーカー)
- 建設業の担い手と法律問題④(橋梁メーカー)
- 建設業の担い手と法律問題⑤(設計事務所)
- 建設業の担い手と法律問題⑥(下請け業者)
- 建設業の担い手と法律問題⑦(労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑧(技術者制度
- 建設業の担い手と法律問題⑨(外国人労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑩(女性労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑪(中高年労働者
- 建設業の担い手と法律問題⑫(建設現場のメンタルヘルス
- 建設業の担い手と法律問題⑬(労働者の解雇
- 建設業の担い手と法律問題⑭(リスクアセスメント
- 建設業の担い手と法律問題⑮(安全衛生教育
- 建設業の担い手と法律問題⑯(労働災害等が発生した場合の対応
- 建設業の担い手と法律問題⑰(就業規則
- 建設業の担い手と法律問題⑱(建設廃棄物の処理
- 建設業の担い手と法律問題⑲(安全配慮義務
- 建設業の担い手と法律問題⑳(建設業における元方事業者の義務