特定調停とは
特定調停とは、経済的に苦しく返済が困難な状態にある債務者からの申し立てにより、裁判所が債務者と貸主などの債権者らの間に入って話し合いを進め、債務の調整―利息・損害金の減額や免除、返済時期の猶予や変更、返済額の一部免除など―を行う手続きのことをいいます。
特定調停は、民事調停のひとつですが、特定調整法(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律)により、他の民事調停とは違ったルールが設けられています。
特定調停の特色
申し立てをできる人の条件(申立人適格)
特定調停の申し立ては、「金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのある者もしくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難である者又は債務超過に陥るおそれのある法人」つまり、借り入れ金などの返済ができなくなるおそれがあり、このまま放置すれば破産をしなければならなくなるような債務者(個人に限られず法人も含む)に限られます(特定調停法2条1項)。
貸主などの債権者からの申し立ては認められていません。
また、申し立てをした債務者の財産が十分であり、支払いができなくなるとは認められない場合には、調停委員会が特定調停をしないとして手続きを終わらせることがあります(特定調停法11条)。
民事執行の停止命令の制度
特定調停の手続きの妨げになるおそれがある場合には、特定調停の対象となっている借り入れ等についての民事執行等の手続きの停止が認められることがあります。
たとえば、債権者の一部が債務者の給与の差し押さえ手続きや住宅ローンの担保権に基づく売却手続きを進めていた場合に、その手続きが特定調停手続きのスムーズな進行を妨げるおそれがあると裁判所が判断した場合には、特定調停手続きが終わるまでの間、民事執行手続き等を停止できる場合があります(特定調停法7条)。
民事執行等の停止が認められるための条件は、通常の民事調停よりも特定調停の方が緩やかになっています。また、特定調停の場合には、担保金の支払いなしに強制執行手続きが認められることもあります。
ただし、民事執行等の手続きを停止するかどうかは、裁判所の判断によって決められますので、執行停止の申し立てをすれば必ずしも停止が認められるわけではありません。
相手方の取引経過の開示義務
特定調停を申し立てられた相手方(金融業者)には、取引履歴を開示する義務が課せられています(特定調停法10条)。
この開示義務を果たさない相手方に対しては、関係帳簿・書類の提出命令がされ(特定調停法12条)、正当な理由なく命令に応じない相手方に対しては、制裁として、10万円以下の過料が命じられることとされています(特定調停法24条1項)。
特定調停のメリットとデメリット
特定調停には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
特定調停のメリット
返済金額の減額や返済時期の猶予・変更などができること
特定調停も、債務整理の方法の1つです。
特定調停の場合も、任意整理の場合と同様に、利息制限法に基づく計算のし直しや将来利息・遅延損害金の免除・減額をすることによって、返済金額を減額することができる場合があります。再計算をしても債務が残ってしまう場合でも、返済時期のリスケジュールなどをすることができる場合があります。
このように借金の減額などをし、月々の支払いの負担を減らして、生活の立て直しを目指すことができます。
特定の業者との間のみ特定調停をすることができる
特定調停は、自己破産や民事再生と異なり、一部の相手方(債権者)についてのみ手続きをすることができます。この点は、任意整理と同様にメリットになりえる点です。
したがって、自動車ローンを特定調停の対象から外して引き続き支払うことで、マイカーを手放すことなく借金問題を解決したり、住宅ローンを特定調停の対象から外して引き続き支払うことで、マイホームを維持したまま借金問題を解決をしたりなど、お客様のご事情にあった柔軟な解決を図ることができる場合があります。
破産のような資格制限がないこと
特定調停の場合は、裁判所の手続きではありますが、自己破産などのように一定の職業(弁護士、司法書士、税理士、警備員、宅地建物取引業者、保険代理店等)に就けなくなるといった効果はありません。この点は、任意整理と同様です。
これに対し、自己破産の場合には、破産手続開始決定を受けた破産者は、居住制限(無断で引っ越しなどができない制限)や郵便物の破産管財人への転送、法律上の資格制限などの制限を受けます。
強制執行等の手続きを停止できる場合があること
上記でも解説したとおり、特定調停を申し立てると、特定調整手続きのスムーズな進行に支障があると判断された場合には、差し押さえや競売、担保のついた不動産の売却などの手続きが停止できることがあります(ただし、民事執行の停止をするかどうかは裁判所が裁量により判断しますので、必ずしも申し立てをした人の希望どおりに執行停止が認められるとは限りません)。
相手方に取引履歴の開示義務や義務違反に対するペナルティが課せられていること
上記でも解説したとおり、特定調停法では、相手方に対して取引履歴等の開示義務や開示命令、正当な理由なくこれに応じない場合の過料の制裁などが定められています。
特定調停のデメリット
手続きに要する時間や労力が多いこと
特定調停は、任意整理をする場合よりも手続きに要する時間や労力がかかります。
特定調停の申し立てには、財産状況の報告書や資料、関係権利者の一覧表を提出しなければなりません(特定調停法3条3項)が、任意整理ではこのような資料を準備することは必要ありません。
また、特定調停の場合には、調停の期日に裁判所へ出席しなければなりません。これに対し、任意整理の場合は、電話や郵便などの手段で交渉をし、双方が合意の上問題を解決することができます。
相手方からの強制執行を受けやすくなるおそれがあること
相手方との話し合いがまとまった場合には調停調書という書類が作成されます。この書類は、強制執行をする場合に提出する債務名義となります(つまり、調停調書には判決と同じ効力があります)。
したがって、話し合いで約束した支払いの期限等を守れない場合には、強制執行を受ける危険性があります。
これに対し、任意整理の場合に作成される和解書は、基本的にこのような効力はありません。相手方は、和解書の内容が守られない場合には、裁判等の申し立てを行い、判決等を取得する必要があるのが通常です。
支払義務を確定するだけで過払金の返還は受けられないこと
過払金がある場合でも、特定調停の手続きの中では過払金の返還を受けることができません。そのため、債務整理の手段としては中途半端な結果しか達成できないことがあります。
これに対し、任意整理の場合には、取引履歴を調査した結果、過払金があることが判明した場合には、そのまま過払金の返還を請求することができます。
任意整理等より有利な結果が得られるとは限らないこと
特定調停は、双方の話し合いによって借金問題を解決する手続きですので、相手方と合意ができなければ基本的に問題を解決することができません。これに対し、自己破産の場合には債権者の意思は関係ありませんし、個人再生(民事再生)の場合にはすべての債権者の同意がなくても手続きをすすめることができます。
また、特定調停を行う調停委員は、必ずしも債務整理の専門家とは限りません。
そのため、適切な取引履歴の引き直し計算をしないまま手続きが進められたり、将来利息や損害金のカットが認められない、客観的にみれば債務者が自己破産をしなければ根本的に問題を解決できないような状況である場合に適切なアドバイスをすることができないなど、任意整理等の他の手続きを利用した場合よりも有利な結果が得られない場合があります。