期限の利益とは
分割払いに期限の利益はつきもの
任意整理により借金の分割払いの合意をするときに、通常は、期限の利益の喪失条項を和解書に加えることになります。
この「期限の利益」や「期限の利益の喪失」とは、いったい何を意味するのでしょうか?
期限の利益とは
民法では、借りたお金は一括払いで返還することが基本形とされています。
たとえば、100万円を6月1日に借りて、12月1日に100万円全部を返す約束をするなどです。
そうではなくて、たとえば100万円を10万円ずつ10回で分割払いするという約束をした場合、借主からみると、一括払いの場合と比べて、お金を返済するまでの時間を待ってもらえているということになります。
この借主の利益のことを「期限の利益」といいます。「期限の利益」とは、簡単にいえば、分割払いで待ってもらえる権利のことをいいます。分割払いの分、貸主等は待たされることになりますので、その分の利息の支払いを約束することもあります。
期限の利益の喪失とは
「期限の利益の喪失」とは、分割払いで待ってもらえる権利(期限の利益)を失うことをいいます。期限の利益を失うということは、借りたお金や売買の代金などを一括で払わなければならないということを意味します。
たとえば、100万円を10万円ずつ10回払いで返済する約束をしていたところ、期限の利益を失ったという場合には、100万円を一括払いで返済しなければならなくなるということです(期限の利益を喪失するまでに払ったお金があれば差し引かれます)。
期限の利益喪失条項とは
そして、期限の利益喪失条項とは、どのような場合に期限の利益を失わせるか、その条件を定めた条項のことをいいます。過怠約款と呼ばれることもあります。
期限の利益喪失条項には、期限の利益を失えば当然に全額の支払い期限がやってくることになるタイプ(当然型)と、支払いを受ける人の意思表示があってはじめて全額の支払い期限がやってくることになるタイプ(意思表示型)の2種類があります。
和解条項を定める時は、通常は、当然に全額の支払い期限がやってくる(当然型)という内容で定めを置く場合が一般的です。
任意整理の場合の期限の利益喪失条項は、2回の支払い遅れがあった場合に期限の利益を失うという内容を定めることが多いです。
この場合、条項では「乙が、前項の分割金の支払を2回怠ったときは、当然に同行の期限の利益を失う。」とか、「乙が、前項の分割金の支払を怠り、その額が2回分に達したときは、当然に同項の期限の利益を失う。」などといった文言を記載することになります。
また、期限の利益を喪失した場合に残額に加えて遅延損害金を支払うという定めを置くこともあります。
この場合、条項には「前項により期限の利益を失ったときは、乙は、甲に対し、第○項の金員の残金に対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年○分の割合による遅延損害金を支払う。」などといった文言を記載することになります。
住宅ローンの場合
住宅ローンの場合、個々の契約内容によって違いますが、5~6回程度の滞納が続くと期限の利益を喪失することになる場合が多いようです。
支払いの滞納が続くと、督促状や催告状が送られるようになります。さらに滞納が続くと、期限の利益喪失通知書が送付されることになるケースが多いです。
期限の利益を喪失した後も支払いをしなければ、最終的に住宅ローンの対象となっている不動産が競売にかけられてしまうことになります。競売にかけられた場合には、一般的に、市場価格よりもかなり低額な価格で不動産が売却されてしまいます。そうすると、競売が終わっても多額のローン残高が残ってしまう可能性もあります。
競売にかけられてしまう前に、任意売却という方法によって不動産を売却することができる場合があります。
任意売却の場合には、競売よりも高い価格で不動産を売却できる場合も多いですし、立退きまでの期限や転居費用の負担などについて配慮をしてもらえる場合もありますので、一般的には競売よりも有利な条件で不動産を売却することができます。