1.建設業法遵守ガイドラインその4
(6)不当な使用資材等の購入強制
建設業法19条の4は、「注文者は、請負契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害してはならない」と規定し、元請負人による不当な使用資材等の購入強制を規制しています。
なお、この規制は、下請契約締結後の行為のみを規制しています。そもそも、元請負人は、元請負人自身が希望するものを作るために下請負人と下請契約を締結するのですから、下請契約の締結に当たって、元請負人が、自己の希望する資材等やその購入先を指定することは、当然のことです。また、下請負にとしても、下請契約の締結前であれば、見積書に指定された資材等の費用を反映させることができ、下請負人の利益を害さないからです。
ここにいう「その利益を害する」とは、下請負人の金銭面及び信用面に損害を与えることをさします。したがって、元請負人が指定した資材等の販売価格が下請負人の予定していた購入価格より安く(金銭面に損害が発生しない)、かつ、下請負人がすでに購入していた資材等の返却の問題も生じない(販売店との関係で信用が悪化しない)のであれば、下請負人の利益が害されたとは言えません。
2.建設業法遵守ガイドラインその5
(7)やり直し工事
元請負人が、下請工事の施工に関し下請負人と十分な協議を行うなど、下請工事のやり直しが発生しない施工に努めるのは当然です。
しかし、やり直し工事せざるを得ない場合、下請負人に帰責事由がなければ、やり直し工事の費用は元請負人が負担しなければなりません。下請負人に帰責事由がないにもかかわらず、下請人に費用を負担させてやり直し工事を実施した場合、不当に低い請負代金の規制に反する場合があります。また、追加工事の際に契約変更を行わなかった場合、建設業法19条2項に違反します。
下請負人に帰責事由がある場合には、下請負人が費用を負担してやり直し工事を行います。下請人に帰責事由がある場合とは、下請負人の施工が契約書面に明示された内容と異なる場合、または、下請負人の施工に契約不適合がある場合をいいます。
(8)赤伝処理
赤伝処理とは、元請負人が下請負人に請負代金を支払う際に、一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用や下請代金の支払に関して発生する諸費用等を請負代金から差し引くことをいいます。
赤伝処理を行えば2度手間を省くことができるので、実務上行われることは多いです。そのため、直ちに建設業法に違反するわけではありません。
しかし、赤伝処理を行う場合、元請負人と下請負人の間で合意が必要です。合意がないまま一方的に赤伝処理を行うと、不当に低い請負代金の規定に反する可能性があります。また、赤伝処理の内容を見積書や契約書に記載しないまま赤伝処理を行った場合、建設業法20条3項や19条に違反します。
3.建設業法ガイドラインその6
(9)支払留保・支払遅延
建設業法24条の3は、「元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。」と規定しています。したがって、下請負人が工事を完成し、目的物を元請負人に引き渡したにもかかわらず、元請負人が長期間に渡って下請負代金を支払わない場合は、建設業法に違反する可能性があります。
(10)長期手形
建設業法第24条の6第3項では、元請負人が特定建設業者であり、下請負人が資本金4000万円未満の一般建設業者である場合、「下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。」と規定しています。
建設業法ガイドラインでは、振出日から支払期日までの期間(手形期間)が120日以上を超える手形による下請代金の支払いが、建設業法に違反するおそれがあるとされています。
4.建設業法遵守ガイドラインその7
(11)不利益取扱の禁止
建設業法24条の5は、元請負人は、当該元請負人について第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)、第19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)、第24条の3第1項(支払留保・支払遅延)、第24条の2(検査及び引き渡し)、第24条の6第3項(長期手形の禁止)または第4項(支払留保・支払遅延)の規定に違反する行為があるとして下請負人が国土交通大臣等、公正取引委員会または中小企業庁長官にその事実を通報したことを理由として、当該下請負人に対して、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならないと規定しています。
(12)帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存
建設業法第40条の3では、建設業者は営業所ごとに、営業に関する事項を記録した帳簿を備え、5年間(平成21年10月1日以降については、発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものにあっては、10年間)保存しなければならいと規定しています。
帳簿には、営業所の代表者の名前、注文者と締結した請負契約の内容、下請負人と締結した下請契約の内容などの事項を記載し、契約書の写しなどを添付する必要があります。また、帳簿には、契約書若しくはその写し又はその電磁的記録等を添付しなければなりません。
5.まとめ
建設業法遵守ガイドラインの概要についてご説明させていただきました。しかし、建設業法には、他にも様々な規制があります。事業所のコンプライアンスについてお悩みの方は、一度弊所にご相談ください。
以下、詳細ページのご案内です。
- 取引上の問題①(JV)
- 取引上の問題②(開発事業)
- 取引上の問題③(工事原価と支払)
- 取引上の問題④(代金の取下げ)
- 取引上の問題⑤(物件の引渡し)
- 取引上の問題⑥(請負契約と下請契約)
- 取引上の問題⑦(契約書作成上の問題点)
- 取引上の問題⑧(工事代金の回収① 法的問題)
- 取引上の問題⑨(工事代金の回収② 仮差押え)
- 取引上の問題⑩(工事代金の回収③ 建築関係訴訟)
- 取引上の問題⑪(工事代金の回収④ 債権に対する強制執行)
- 取引上の問題⑫(少額訴訟と支払督促)
- 取引上の問題⑬(建築工事紛争審査会)
- 取引上の問題⑭(元請会社の破産)
- 取引上の問題⑮(建設業法遵守ガイドライン①)
- 取引上の問題⑯(建設業法遵守ガイドライン②)