1.仮差押えとは
前ページでご説明させていただいたとおり、発注者は「工事内容に不満がある」「お金がなくて支払えない」「追加工事の分は払えない」などといって、工事代金の支払いを拒否することがあります。
交渉でうまく解決できればよいですが、工事代金は金額が大きく、お互いの言い分も食い違っていることが多いので、交渉で解決できることはあまりないでしょう。
そこで、請負人としては、工事代金の支払いを求めて訴訟を提起することになるかと思います。
しかし、訴訟を提起してから判決が出るまで、どんなに早くても数か月、当事者の言い分が真っ向から対立する場合には数年かかることもあります。その間に、相手方に土地や建物、預金などの価値がある財産があったとしても、土地や建物が誰かに売られてしまったり、預金が引き出されて使われてしまっては、仮に訴訟で勝っても、相手方からお金を回収することができなくなるおそれがあります。
そのため、あらかじめ相手方の財産について、売ったり、使われたり、隠したりできないようにするため、財産を仮に差し押さえるという手続が、仮差押えです。
2.仮差押えの要件
(1)財産の把握
仮差押えの対象は、銀行への預金債権や第三者への債権がほとんどです。そのため、相手方の預金口座に仮差押えするためには、相手方の銀行口座を特定する必要があります。具体的には、銀行名と支店名を特定する必要があります。
相手方の銀行口座が分からない場合、相手方の自宅等の近くにある複数の銀行及び支店を対象として申立てることが考えられます。もっとも、預金口座が存在しないこともありますし、預金口座が存在していたとしても、口座に少額しか入っていない可能性もあります。仮差押えができないという事態を避けるため、平時から発注者の預金口座を把握しておくことは重要です。
(2)「被保全権利の存在」と「保全の必要性」
仮差押えが認められるには、裁判所に「被保全権利が存在すること」と、「保全の必要性」があることを疎明しなければなりません。なお、疎明とは、立証の程度を表す言葉で、ある事実について、裁判官に一応確からしいと推測させる程度のことです。
「被保全権利が存在すること」とは、工事代金債権が存在することを指します。また、「保全の必要性」とは、仮差押えをしなければ、将来判決を取得した後に強制執行をすることができなくなる、又は著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められます。簡単に言えば、「判決を待っていられない理由」を指します。
(3)担保金の提供
仮差押えされると、不動産の場合は仮差押えの事実が登記に載ります。また、預金口座の場合、口座は一時的に凍結されます。
したがって、万が一、事実無根の事由で仮差押えされた場合、債務者は口座の一時凍結などの著しい不利益を被ることになります。このような事態を避けるため、仮差押えを申し立てられた債務者が不当な損害を被った時の保証金として、担保金の提供が必要となります。
3.仮差押えのメリット・デメリット
(1)メリット
同じ裁判上の手続である調停や訴訟と比較すると、かなり早い段階で仮差押えの結論がでます。早ければ、裁判所に申立をしたその日に仮差押命令が発令されることもあります。
また、仮差押えがされると、先述のとおり、銀行口座が一時的に凍結されたりするので、当然、銀行としても仮差押えされた事実を知ることになり、相手方の信用低下など、大きなダメージを与えることになります。そのため、仮差押えを解除するため、金銭の支払に応じたり、交渉段階よりも有利な条件を提示してくる場合もあります。
(2)デメリット
他方で、デメリットとしては、差押えはあくまでも相手方の資産の現状を維持するものに過ぎず、優先権が認められるわけではないということです。
すなわち、仮差押えの対象となった資産は全ての債権者にとって引き当てとなる財産なので、要件を満たせばどの債権者であっても差し押さえをすることができます。仮差押えが成功しても、お客様が対象資産から優先的に債権回収を図ることができるわけではありません。
また、先述した担保金は、請求額の20%から30%になることが多いです。そのため、工事代金が大きければ大きいほど、担保金の額も大きくなってしますのです(なお、勝訴判決が出る等、一定の要件を満たせば担保金は返還されます)。
最も注意しなければならないのは、仮差押えによって取引先等の信用状態が悪化し、ただでさえ良くなかった経済状況がさらに悪化し、破産等に繋がってしまうことです。仮差押えに成功しても、破産されて仮に差押えた債権ごとなくなってしまえば元も子もありません。
4.まとめ
このように、デメリットもありますが、訴訟提起前に相手方の財産を仮差押えすることは、債権回収の手段としても、交渉の手段としても有効です。
工事代金の回収でお悩みのお客様は、ぜひ弊所にご相談ください。弊所は、お客様のニーズに合わせて様々な債権回収プランをご用意しております。
以下、詳細ページのご案内です。
- 取引上の問題①(JV)
- 取引上の問題②(開発事業)
- 取引上の問題③(工事原価と支払)
- 取引上の問題④(代金の取下げ)
- 取引上の問題⑤(物件の引渡し)
- 取引上の問題⑥(請負契約と下請契約)
- 取引上の問題⑦(契約書作成上の問題点)
- 取引上の問題⑧(工事代金の回収① 法的問題)
- 取引上の問題⑨(工事代金の回収② 仮差押え)
- 取引上の問題⑩(工事代金の回収③ 建築関係訴訟)
- 取引上の問題⑪(工事代金の回収④ 債権に対する強制執行)
- 取引上の問題⑫(少額訴訟と支払督促)
- 取引上の問題⑬(建築工事紛争審査会)
- 取引上の問題⑭(元請会社の破産)
- 取引上の問題⑮(建設業法遵守ガイドライン①)
- 取引上の問題⑯(建設業法遵守ガイドライン②)