1.元請業者の破産
元請会社と請負契約を締結し、下請として請負工事を行っていたとします。ある日、請負工事が残っている状態で、突然元請会社が破産手続開始を申し立てた場合、どのように対応すべきでしょうか。
このようなことはめったにない、と思われるかもしれません。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて倒産した業種別の件数は、飲食店が1位で、「建設・工事業」は飲食店に次ぐ2位となっています。
これは、建設業界には主として飲食店やホテル、旅館などの改修工事を行っている中小規模の建設会社が多いところ、飲食店なども新型コロナウイルスの影響業績が悪化し、店舗や施設の定期的な新設・改修を行うことができなくなったため、連動して建設業界の業績も悪化したことなどが原因と考えられています。
そのため、元請会社が突然倒破産してしまう、という可能性は十分に考えられます。
このページでは、元請会社が破産してしまった場合の対応についてご説明させていただきます。
2.工事未完成の場合の問題点
(1)問題点
工事が未完成の状態であるにもかかわらず請負会社が破産手続を申立てたということは、請負会社にはもはや支払能力はないということになります。そのため、下請人の立場としては、工事を継続して仕事を完成させても報酬を得られないおそれがあります。また、注文者の立場としても、下請人が仕事を完成させた場合、請負報酬を支払わなければならず、債務額が増大してしまうことになります。
このように、工事が未完成の状態で元請会社が破産を申し立てた場合、元請会社はもちろんですが、下請会社にも多大な影響を与えることになります。そのため、工事を完成させるのか、契約を解除するのかを明確にする必要があります。
(2)契約はどうなるのか
請負会社について破産手続が開始された場合であっても、請負契約は当然に終了するわけではありません。破産管財人または注文者によって契約が解除されない限り、契約は継続します。なお、破産管財人とは、債権者に配当をするための財産(破産財団)の管理を行い、配当を行う者のことで、裁判所から選任された弁護士が担当します。
3.契約の解除または履行の請求
(1)元請会社(破産管財人)の場合
注文者が破産手続開始の決定を受けたとき、仕事の完成前に限り、破産管財人は契約を解除することができます(民法642条1項)。
また、破産手続開始の時において、元請会社と下請会社共にまだ未履行の債務がある場合には、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができます(破産法53条1項)。
(2)下請会社の場合
当事者間で請負契約が締結されている場合、下請側が契約を解除できる場合として、「資金不足による手形又は小切手の不渡りを出す等発注者が支払いを停止する等により、発注者が請負代金の支払い能力を欠くと認められるとき」などと規定されていると思います。契約にこのような規定があれば、契約の解除が可能です。
また、注文者が破産手続開始の決定を受けたとき、仕事の完成前に限り、下請会社も契約を解除することができます(民法642条1項)。
さらに、破産手続開始の時において、元請会社と下請会社共にまだ未履行の債務がある場合には、下請会社は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができます。この場合、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなされます(破産法53条2項)。
4.契約が継続した場合
破産手続開始後も請負契約が継続される場合があります。この場合、請負契約が継続している以上、下請人は仕事を完成させなければなりませんし、仕事が完成した場合、元請会社は報酬を支払わなければなりません。
下請会社としてみれば、仕事を完成させても報酬が得られないのであれば、わざわざ工事を完成さなくても契約を解除すればいいだけです。そのため、破産財団中に請負報酬を支払うだけの財産がある場合に限り、契約は継続されます。
また、元請会社(と破産管財人)としては、完成予定の目的物が高価で、請負報酬を支払ってでも目的物を破産財団に組み入れた方が破産財団の増殖につながるというような場合、契約を継続するメリットがあります。
仕事が完成すれば、目的物は破産財団に組み入れられ、他方、元請会社は下請会社に報酬を支払うことになります。この場合の下請会社の請負報酬請求権は財団債権(破産手続によらず、破産者の財産から随時弁済を受けることができる債権のことです)となります。
5.契約が解除された場合
契約が解除された場合、その時点で契約は終了しますので、工事は未完成のまま終了することになります。工事が未完成なまま終わるわけですから、工事の目的物をどうすべきか問題になります。
通常の請負契約であれば、契約書に「工事の完成前にこの契約を解除したときは、発注者が工事の出来形部分を引き受けるものとする」等の規定があると思いますので、工事の目的物は破産財団に組み込まれます。
報酬の前払いがされている場合には、その前払い報酬と未完成の目的物の出来高の査定価格を比べます。
前払い報酬の方が高額であった場合(このようなケースは稀です)、破産管財人は、請負人に対し、出来高の査定価格との差額の返還を請求することになります。
他方、出来の査定価格の方が高額であった場合には、請負人はその差額部分についてのみ破産債権者として破産手続に参加できます。この場合、下請会社としては、配当が見込めない場合に報酬債権の回収が困難になるというデメリットはありますが、未完成の目的物の撤去費用等を負担せずに済むという意味ではメリットになります。
以下、詳細ページのご案内です。
- 取引上の問題①(JV)
- 取引上の問題②(開発事業)
- 取引上の問題③(工事原価と支払)
- 取引上の問題④(代金の取下げ)
- 取引上の問題⑤(物件の引渡し)
- 取引上の問題⑥(請負契約と下請契約)
- 取引上の問題⑦(契約書作成上の問題点)
- 取引上の問題⑧(工事代金の回収① 法的問題)
- 取引上の問題⑨(工事代金の回収② 仮差押え)
- 取引上の問題⑩(工事代金の回収③ 建築関係訴訟)
- 取引上の問題⑪(工事代金の回収④ 債権に対する強制執行)
- 取引上の問題⑫(少額訴訟と支払督促)
- 取引上の問題⑬(建築工事紛争審査会)
- 取引上の問題⑭(元請会社の破産)
- 取引上の問題⑮(建設業法遵守ガイドライン①)
- 取引上の問題⑯(建設業法遵守ガイドライン②)