1.工事原価の特色
建設業では、下請業者を利用することが多く、特にゼネコンが受注した工事では、下請業者による施工が占める割合が高くなる傾向にあります。
下請業者による施工は、元請業者の原価管理上、外注費に該当します。そのため、ここではゼネコンを前提として、元請業者における外注費の原価管理について説明いたします。
出来高査定
外注費の支払方法については、元請業者と下請業者の請負契約の内容により決まります。もっとも、一般的には、毎月の工事の進捗(出来高)に応じて支払われる出来高払となることが多いといえます(他の支払については「取引上の問題④(代金の取下げ)」のページをご参照ください)。
これは、下請業者が査定日までの出来高累計額を記載した出来高内訳書を元請業者に提出し、元請業者の査定担当者が、工事の進捗状況等から判断して適切であることを確認し、上席である作業所長の承認の後、下請業者が元請業者に代金を請求するものです。
外注費に係る内部統制
外注費は、出来高査定という担当者による不正の余地がある特殊な仕組みや、工事原価総額に占める割合が高いことから、他の工事物件への工事原価の付替え(例:工事Aが赤字になるのを防ぐため、工事Bに工事原価に計上する)や、下請業者と結託して請求書の偽造や出来高の架空計上など、不正の温床となりやすいことは否定できません。
そのような不正を防止するために、下請業者に対する出来高払の妥当性を検証するシステムが必要になります。元請業者においては、一義的には、作業所長による検証が行われますが、それに加えて二次的に工事部門の上席や経理部による検証が行うという、不正を抑制する内部統制システムが整備されていることが一般的です。
2.外注費不正の実例
平成28年7月6日、ゼネコン大手の清水建設が国税局の税務調査を受け、5年間で約20億円の申告漏れを指摘され、清水建設はそれに「従う」とコメントしたと各社が報道しました。
その申告漏れには外注費が経費として認められなかったというものも含まれています。
記事によると、工事の発注業務なども担当していた現場監督の元社員が、下請業者8社に外注費を水増し請求させていたことが明らかになりました。
結果的に、現場監督の元社員は、5年間で約1億4千万円を下請業者から還流(キックバック)させ、飲食費などに使っていたとのことです。したがって、国税局は、水増しの外注費を工事原価、すなわち経費と認めませんでした。
キックバックの仕組みについて
キックバックとは、支払った代金の全部または一部を、発注した担当者に返還することをいいます。以下、キックバックの仕組みを1年単位でご説明いたします。
ある現場のその年の正規の外注費が、A社は1000万円であったとします。
現場監督は下請業者の出来高を知っているため、A社の社長に倍の2000万円を自社宛に請求するよう指示します。その上で、水増しした半分を自分に支払うよう指示します。つまり、A社からは500万円を現金で受け取ることになります。
現場監督の裏金作りは、下請業者にとっては断れない必要悪となってしまっています。
ある下請業者は、キックバックに加担して幾らか潤ったとしても、所詮は裏金だからビクビクし、気が休まらないと述べています。
平成28年7月15日、国税庁は、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領の制定について(事務運営指針)(6月14日付)を公表しました。
1人の現場監督による外注費の不正が、会社に対する税務上の重大なペナルティに繋がることを意識した上で、適正な内部統制システムを構築することが必要です。
3.支払に関する建設業法上の規制
元請業者が発注者から代金の支払を受けた場合の下請業者への支払についての規制(建設業法24条の3、24条の5)については、「建設業の担い手と法律問題⑥(下請け業者)」のページにてご説明しておりますが、ここでは、発注者から代金の支払を受けていない場合にも適用される規制をご説明いたします。
赤伝処理(同法18条、19条、19条の3、20条3項)の規制
赤伝処理とは、元請負業者が下請負代金の支払時に以下の費用を差引く(相殺する)行為を指します。
ア.下請負代金の支払に関して発生する諸費用(下請負代金の振り込み手数料等)
イ.下請工事の施工に伴い副次的に発生する建設廃棄物の処理費用
ウ.上記以外の諸費用(駐車場代、安全協会費等)
赤伝処理は、下請業者に費用負担を求める合理的な理由があるものについて、元請業者と下請業者双方の協議・合意の元で行えるものであり、元請業者は、赤伝処理の内容や算定根拠等について、見積条件や契約書面に明示する必要があります。適正な手続に基づかない赤伝処理は建設業法違反となる可能性があります。
長期手形(同法24条の5第3項)の規制
元請業者が特定建設業者であり下請業者が資本金4000万円未満の一般建設業者である場合、下請代金の支払に当たって一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならないとされています。
なお、建設業法遵守ガイドラインでは、「割引を受けることが困難であると認められる手形」に関して、手形期間が120日を超える長期手形という一定の判断基準を示しています。