債権回収における処分禁止の仮処分
1.処分禁止の仮処分
仮処分とは、債務者の財産隠匿などによって債権者の権利の実現が妨害されるおそれがある場合、判決による権利確定又は強制執行が可能になるまで、権利の実現に支障がないように裁判所によってなされる暫定的処置をいいます。
貸金債権などの金銭債権を保全するためには、仮差押という手続を利用しますが、仮処分は金銭以外の権利を保全するために用いられます。
仮処分は、目的・態様に応じて「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」の二種類に分けられます。
初めに全ての仮処分に共通する事項をご説明した上で、それぞれの手続の具体的な説明、及び債権回収における処分禁止の仮処分の活用法について説明いたします。
2.仮処分に共通する事項
申立ての際に、債権者が被保全権利の存在と保全の必要性を疎明しなければならないことは仮差押と同様です。
また、仮処分は暫定的措置であって、後日、訴訟で被保全権利が存在しないことが明らかになることもあり得るので、債権者は、債務者に発生しうる損害を填補するため、一定の担保を立てることが求められます。
なお、仮処分命令に不服のある債務者は、保全異議の申立てをすることができますが、その際は債務者が担保を立てることを求められます。
3.仮処分の種類
(1) 仮の地位を定める仮処分
係争中に生じている損害から債権者を保護するためにされる仮処分です。
例としては、名誉毀損やプライバシー権侵害が危惧される内容の本が出版されそうな場合に、出版差し止めの仮処分を申し立てる場合や、私道上に柵を作られて通れないようにされそうな場合に、工事差し止めの仮処分を申し立てる場合が挙げられます。
どちらも訴訟による解決を待っていたのでは、本が出版されたり、柵が完成したりして、権利の実現(名誉棄損やプライバシー侵害の防止、私道の交通)が不可能になります。
そのため、仮処分の申立てが認められています。
仮の地位を定める仮処分は、債務者側に影響が大きいので、債務者に対する審尋を行い、反論や立証の機会を与えます。
(2)係争物に関する仮処分
金銭債権以外の権利執行を保全するために、現状の維持を命ずる仮処分です。さらに2つに分けられます。
ア.占有移転禁止の仮処分
賃貸借契約の終了などの理由で不動産の明渡しを求める訴訟を提起する場合、相手方(債務者)に対して明渡しを命じる判決を得ても、債務者が訴訟中に第三者に住まわせるなど占有を移してしまった場合には、占有者が債務者ではないため、明渡しの強制執行はできません。
そこで、債務者が第三者に占有を移すおそれがあるとき、占有の移転を禁止(明渡請求権の保全)するために仮処分を申し立てます。この仮処分命令に基づいて、執行官が、その不動産を保管中であることを示す公示書を掲示し、もし仮処分に違反して占有が第三者に移転されても、債権者が後日、債務者に対する訴訟で勝訴した場合は、第三者に対して改めて訴訟を提起しなくても、原則として第三者に対して明渡しの強制執行をすることができます。
イ.処分禁止の仮処分
自分の所有する不動産の登記が他人名義になっているため、抹消登記を求める訴訟を提起する場合に、相手方(債務者)が訴訟中に第三者に登記を移転してしまわないようにするなど、登記請求権を保全するために不動産の処分を禁止するために申立てを行います。
この仮処分が認められると、登記簿に処分禁止の登記がされるため、もしその登記の後に債務者から第三者に登記が移転されても、債権者が後日、訴訟で勝訴した場合は、第三者への移転登記を抹消することができます。
4.債権回収のための処分禁止の仮処分
上記のように、仮処分は金銭債権そのものの保全には利用できませんが、処分禁止の仮処分は債権回収で利用できる場面があります。
それは、債務者が財産を処分した場合、それを取り戻すために詐害行為取消権を行使する場合です。詐害行為取消権とは、債権者が、自己の債権を保全するために、債務者が行った不当な財産処分行為の取消しを、裁判所に請求することができる権利です。
この詐害行為取消請求権を被保全債権として、債務者から不動産を譲り受けた第三者(受益者又は転得者)に対して、仮処分の申立てを行います。
これは、上記の所有権移転登記請求権を被保全債権とする場合と同様に、第三者に対する詐害行為取消請求訴訟の係属中に、第三者が他人に不動産を譲渡することによって、訴訟が無意味となることを防ぐためです。
仮処分の申立ての際は、被保全債権の存在として、債務者に対する金銭債権が存在することだけではなく、詐害行為取消の要件である、債務者の無資力などについても疎明する必要があります。
具体的には、処分された財産以外に債務者名義の財産が存在しないことを不動産登記事項証明書などによって疎明していくことになります。
【注意】
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