債権回収における示談交渉
1.示談交渉とは
示談とは、当事者双方が互いに譲歩しあうなどして、合意によって事件を解決することをいいます。
示談によって債権回収できるのであれば、訴訟などの法的措置が不要になるため、費用、時間及び労力の点で効率的です。
特に債権の存在や金額について争いがないような場合には、債務者の支払能力に応じて現実的な支払方法を検討し、示談交渉によって解決することが望ましいと思われます。
また、既に債権の消滅時効期間が経過している場合や、証拠が十分でない場合に法的手続をとることはかえって不利な結果となる場合があります。
むしろ、示談交渉の際に債務者に受け入れ可能な条件を提示することによって、債務者に支払を約束させることができれば、後に債務者が消滅時効を主張して支払を拒むことや、債権の存在を否定することを防ぐことができるようになります。
また、将来の全額回収よりも、現時点で一部でも回収することを優先することが、債権回収の鉄則になります。たとえ債務者が3か月後に満額を支払うことを約束しても、1か月後に破産されてしまっては、ほとんど回収することはできません。
現時点で一部でも回収するためには、示談交渉の際に債務の一部免除などの譲歩を示し、これと引換に支払を受けることも検討する必要があります。
示談交渉の結果、合意ができた場合には、その合意内容は必ず書面にしておくべきです。
可能であれば、相手方が合意内容に違反した場合に備えて、公正証書や即決和解調書にしておき、強制執行できるようにしておいたほうが、改めて訴訟を提起する必要がなく、迅速な債権回収が可能となります。
公正証書や即決和解については当該項目のページをご参照ください。
2.示談交渉のメリット
債権回収の手段は示談交渉に限られませんが、示談交渉にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
1.費用、時間及び労力の点で効率的
前述のとおり、示談交渉は訴訟などと比べ、費用、時間及び労力の点で効率的です。
また、訴訟を提起する場合は、弁護士に依頼することが通常ですが、示談交渉では必ずしも弁護士に依頼する必要はありません。
2.相手方との関係を悪化させない
たとえ相手方が正当な理由なく支払を怠っている場合でも、「訴えられる」こと自体や、「被告」とされることに強い反感を示されることが多いのが実情です。
なお、民事訴訟の「被告」とは訴えを起こした側の「原告」に対応する言葉であり、刑事訴訟の「被告人」とは全く別の言葉です。
示談交渉では、そのような反感を招くことは極力避けられます。
債務者と今後も取引を続ける予定があるのであれば、示談交渉で解決したいところです。
3.法的な枠にとらわれない解決が可能
訴訟での結論は判決で示されますが、判決では、たとえ当事者が希望していたとしても、法的に根拠がない請求は一切認められません。
例えば、債権者が金銭の請求に加え、「被告は、原告に対し、支払が遅れたことについて謝罪する」という判決を求めたとしても、この部分は法的に認められる請求ではないため、棄却されます(名誉毀損に対する回復措置として「謝罪広告」を命じることはあります)。
訴訟上の和解であれば、当事者が納得すれば謝罪を条件に和解を成立させることがありますが、訴訟上の和解も裁判所が関与する手続であり、その内容を記録した和解調書が債務名義となることから、当事者が納得していたとしても、無制限に条項として記録することはできません。
その点、示談交渉ではそのような制限はありません。当事者が納得するのであれば、謝罪以外の措置も示談の内容とすることができます。
それによって、解決が容易になることもあります。
もっとも、法的根拠がない合意は、それが守られなかった場合に強制的に実現できませんし、公序良俗に反する事項が含まれている場合は、示談の効力にかかわる可能性もあります。
3.示談交渉のデメリット
次に、示談交渉のデメリットを見ていきましょう。
1.強制力がない
示談交渉は「話し合い」であるため、双方の意見が一致しない場合、強制的に話を進めると言うことはできません。
例えば、一方が「Aの件は話が平行線のままだから、先にBの件を進めたい」と考えても、もう一方が「Aの件が片付くまではほかの話はしない」という考えであれば、先にBの件を話し合うということはできません。
訴訟の場合は、裁判所が一定の強制力を持って進行役としての機能を果たしますが、示談交渉の場合は原則として進行役不在のため、交渉が止まってしまうことになります(例外的に仲介役が双方の調整を行うことはあります)。
また、交渉の結果は別途、公正証書などを作成しない限りは、強制力がありません。
2.逆に時間がかかる場合もある
上記1とも関連しますが、進行役が不在で話が進まない場合もありますし、示談交渉にこだわっていると、債権者が早く示談を成立させたいと考えていても、債務者が引き伸ばしを図った場合に対策が打てません。
訴訟であれば、裁判所による進行や、引き伸ばしに対する制裁(反論の機会の制限)などにより、一定の進行速度は維持されます。
その結果、早く示談交渉を切り上げて訴訟を提起した方が早く解決することもあります。
【注意】
弊所では、債権回収業務について、事業性資金(事業により発生した債権(例:工事代金、売買代金、診療報酬などの売掛金や賃料・リース料など))の回収業務のみをお受けしております。個人間・親族間の貸付け等(親子間の貸付けや、個人的な貸付け)の債権回収は受け付けておりません。予めご了承ください。