労働審判による残業代請求
労働審判とは、労働者と使用者との間で起きた労使紛争について、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名が審理し、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする裁判所の手続です。
原則として3回以内(平均審理期間約70日)で終結するため、裁判と比較して当事者の負担が少ないと言えます。
労働者から労働審判を起こされた場合、「労働審判申立書」という書面が裁判所から会社宛に送達されてきます。
その場合の対応について解説します。
1.第1回期日の確認と出席者の調整
第1回期日は、裁判所の予定によって一方的に指定されます。
労働審判申立書と共に送付される「期日呼出状及び答弁書催告状」という書面に、第1回期日が記載されています。また、この書面には、期日の1週間~10日前程度の期限に答弁書を提出するよう記載されています。
労働審判では、第1回期日にしか事実審理が行われないことがままあり、その場合には第1回期日の参加者しか証人としての証言を行えないこととなります。
したがって、指定された第1回期日に、重要な関係者を出席させることができるよう、予定調整が必要となります。
2.弁護士への相談
労働審判は3回の期日で終結するのが原則ですが、実際には第1回期日で事実審理が終了し、労働委員会の心証が決定されることが大半であると言えます。
第2回以降の調停の席上で不利な心証を聞いてから慌てて主張立証を追加しても、逆転は困難になります。
そのため、十分な準備をした上で第1回期日に臨むことが必要となります。
もっとも、会社側で労働審判に対応する場合には、準備期間が非常に短期間であり、この短期間の間に第1回期日における対応の準備(リハーサル)と、答弁書による主張・立証を同時並行で進めていかなければなりません。これら全てを会社のみで対応することは非常に困難です。
したがって、会社側で労働審判に対応する場合には、弁護士に依頼することをお勧めします。
顧問弁護士と契約している場合は、その弁護士に労働審判への対応を依頼するのが一般的です(会社の内情をよく知っているからです)。
3.事前の主張・立証準備
第1回期日までの準備期間が非常に短期間であることから、弁護士に相談する前であっても、社内で行うことのできる準備は済ませておいた方がよいでしょう。
会社側と弁護士の双方が、事実関係を十分に理解している状態で労働審判に臨むことが必要となります。
そのためには、弁護士に相談する際に、時系列をあらかじめ整理してまとめた上で、基本的な資料を持参して事実関係を説明することが望ましいでしょう。
弊所においても、お客様のご要望にお応えするため、ご相談時に関連する資料をご持参いただくことをお願いしております。
必要となる資料として、下記のようなものが挙げられます。
- 裁判所から送達された書類(労働審判申立書、期日呼出状及び答弁書催告状)
- 会社の諸規定(就業規則、賃金規程など)
- 申立人(労働者)の入社時の書類(雇用契約書等)
- 給与に関する書類(賃金台帳、給与明細、源泉徴収票など)
- 労働時間を示す書類(タイムカード、日報など)
もっとも、労働審判が申し立てられたことが社内で広まってしまうと、他の従業員が同じく残業代請求などをしてくるなど、他の労使紛争を誘発する可能性があるため、慎重に準備を行う必要があります。
4.和解提案の検討
残業代に関する労働審判が申し立てられ、申立に相当程度の理由がある場合には、労働審判における解決では金銭的解決が図られることが原則です。
したがって、会社側としては、労働者の請求がどの程度法的に理由があるのかを検討した上で、ある程度理由があると判断される場合には、どの程度であれば金銭的解決が可能であるかについて、おおよその想定を検討し、社内で合意を得ておく必要があるといえます。
労働審判を申し立てられたことが裁判所の送達によって判明したときには、答弁書の締切まであまり期間がないことが多く、会社側の準備期間は非常に限られています。
そのため、労働問題の知識と経験を有する専門家と協力した上で、迅速かつ効率的な対応をすること不可欠であるといえます。
労働審判を申し立てられた際には、まずは弁護士にご相談ください。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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