会社の従業員(元従業員)から残業代を請求される、という事案が増えています。
背景には、適正な残業代が支払われていない、いわゆる「サービス残業」が社会問題化したことにより、労働者の間で「未払い残業代を請求すべきだ」という意識が高まってきたことがあります。
従業員を雇用している以上、こうした請求を受ける可能性はどのような会社にもあります。
ここでは、残業代を請求された場合に会社がとるべき対応について説明します。
1.従業員から内容証明が届いたら
従業員が会社に対して残業代の請求をする場合、まず最初に内容証明郵便により支払いの請求がなされるのが一般的です。
通常、書面には「残業代○○円が未払いであるから、これを本書面到達後○日以内に支払え」などとして、支払期限が記載されます。
このような書類が送付された場合、慌てることなく書面の内容を確認し、事実関係を把握することが重要です。
特に確認すべき内容は以下の点です。
- 残業代請求してきたのは従業員自身か、代理人弁護士か、労働組合か
- 残業代を請求してきた労働期間はいつか(「○年○月から△年△月までの未払い残業代として」などの記載)
- 請求してきた金額はいくらか
- 請求してきたのは残業代だけか、ほかにもあるか(慰謝料や付加金)
- 残業代請求に伴い就業規則や給与明細、タイムカードなどの交付を求めているか
「内容証明郵便に記載された期限を過ぎてしまえば裁判を起こされるんじゃないか」といったことを危惧される方も少なくないと思います。もっとも、実際には、期限を過ぎても振り込みがなければ直ちに裁判を起こされる、といった可能性は極めて低いと言えます。
裁判をするためには、請求をする側が必要な書類や証拠を準備し、裁判所に提出する、という作業が必要になります。たとえ弁護士に依頼していても、そこまで綿密に準備して即座に裁判を起こす従業員は非常にまれであると言えるでしょう。
なお、内容証明が届いた時点で、「未払残業代を支払う」といった約束をしてしまった場合、「会社が自ら支払い義務を認めた」ということになります(債務の承認)。その場合、請求の時点で消滅時効(一定期間の経過により請求権が消滅すること)が完成していても、会社側から事項を主張できなくなってしまいます。
また、事実関係をよく確認しないまま、会社が相手方の主張する事実を認めてしまったような場合、後に裁判になってしまったときに、会社側に不利な証拠として提出されてしまう可能性があります(電話でのやりとりなども、相手方に録音されている可能性があります)。
そのため、会社としては、社員からの残業代請求の内容証明郵便を受領しても、あわてることなく、落ち着いて内容を確認し、どのような対応をするのが適切であるかを慎重に検討することが何よりも重要です。
もっとも、労働基準監督署へ申告されてしまうリスクなどもあるので、指定された支払期日までに回答が間に合わない場合には、「現在、検討中なので追って回答する」といった程度の連絡を入れておくのが望ましいでしょう。
2.勤務状況の確認と方針の決定
⑴ 勤務状況の確認
請求への対応を決めるにあたっては、その従業員の勤務状況を正確に把握する必要があります。 主な資料としては、
- 賃金台帳
- 就業規則(賃金規程)
- 労働契約書や労働条件通知書
- 勤務表(出面帳やタイムカード、日報など)
また、PCのログデータ、グループウエア、タコグラフ(自動車の走行速度・走行距離などを記録する装置)といった電磁的な記録についても、客観的な勤務実態を把握する証拠資料として有用です。
これらの資料から、
- 出社と退社の時刻
- 勤務日数
- 労働時間に見合った賃金が支払われていたか
⑵ 方針の決定
事実関係を確認した結果、「法的に支払うべき残業代の有無とその金額」が明らかになります。
法律上、残業代を支払うべき義務がある場合、会社は従業員に対し、未払いの残業代を支払うことになります。
このような場合に従業員の要求を拒否又は無視すると、裁判に負けてより高額の金銭の支払いを命じられたり、労働基準監督署に通告されて処分を受けたりするリスクがあるため、注意が必要です。
もっとも、残業代を支払う必要がある場合でも、いつ、どのような形で、いくら払うかといったことは、別途検討する必要があります。
また、従業員が労働組合を通じて交渉を申し込んできたり、労働審判を申し立てることもあります。このような場合は、それぞれの手続に従って対応することになります。
このように、請求を受けた場合に会社としてどのように対応すべきであるかは、ケースバイケースであると言えます。未払い残業代の請求を受けた場合は、まずは弊所にご相談ください。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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