残業代請求と労基署対応
労働者が、会社に残業代不払いなどの労働基準法違反があるとして、労働基準監督署に通報・通告する場合があります。
ここでは、このような場合の会社側の対応について解説します。
1.労働基準監督署とは
労働基準監督署は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等の労働基準関係法令が企業に守られているかをチェックし、労働者の労働条件・労働環境を確保・改善する厚生労働省(労働基準局)の第一線の機関です。
労働基準監督官は、会社の事業場等に立ち入る(臨検)権限を持っています。その際には帳簿、書類等の提出を求め、労働者・使用者に対して尋問することもできます。
さらに、労働基準監督官は、警察官と同様の強制的な捜査を行う権限も持っています(労働基準法102条)。
労働基準法等の法令違反の程度が著しいような場合は、逮捕や送検されるケースもあります。
2.労働基準監督署の監督への対応
(1) 労働基準監督署の臨検監督の種類
労働基準監督署は、会社の事業場を強制的に立ち入り検査(臨検監督)し、法令違反を是正指導します。近時の臨検監督は、会社に何も事前連絡をせずに行われることが多いです。
臨検監督には次のような種類があります。
①定期監督
労働基準監督書が定めた監督計画にもとづき、その年度の行政課題に見合った事業場を選び、定期的な臨検監督を行うものです。
たとえば、いわゆる「ブラック企業」が問題となった年においては、長時間労働の是正が行政課題として、長時間労働が起きがちな事業場がターゲットとされました。
②申告監督
労働者等から、「会社が労働基準法等の法律違反があるので調査して是正してほしい」という申告をきっかけに実施される監督です。
残業代請求等、労働者との個別のトラブルから労働基準監督署が監督に入る場面は、この申告監督がほとんどです。
③災害調査・災害時監督
労働災害により事業場で労働者が死傷した場合等に、労働災害の実態、原因、労働安全衛生法違反の有無を確認して緊急対策を行うことです。
3.労働基準監督署の監督・指導の流れ
労働基準監督署の監督は以下の点についてなされることが多いとされています。
① 事業場の概況、従業員の勤務状況等、就労現場の安全衛生管理対策の状況の把握・確認
② 労働関係帳簿・書類等のチェック(賃金台帳・就業規則・36協定・タイムカード・勤務記録票・給与明細書等、事業場に備え置いてある帳簿・書類のチェックを受けます。)
③ 事業主、労働者からの事情聴取(必要に応じて、社長や現場責任者、労働者から事情を聴取されます。)
④ 使用停止等命令書の交付/是正勧告書・指導票の交付(使用停止命令書は、緊急に改善しないと生命や身体に危険を及ぼすおそれのある物の使用を禁止したり、改善を命令するためのものです。是正勧告書は、労働基準法等の法令違反を解消し、過去にさかのぼって是正を求めるために交付されます。指導票は、法令違反等はないが、そのままにしておくことが望ましくない状況に対して改善を要求するための文書です。労基署の立ち入りにより未払いの残業代があることが発覚したような場合、是正勧告書が交付されることになります。)
⑤ 会社から是正報告書の提出(労働基準監督署から、是正報告書の提出期限を定めて、指摘した事項についてどのように改善を行ったのかを報告することを求められます。)
⑥ 再監督(是正報告を受けてもなお監督が必要な場合、再監督が行われることがあります。)
4.労働基準監督署への対応方法
(1) 労働基準監督署からの呼び出しへの対応
労働基準監督書の呼び出し等は任意であり、状況によっては拒否することも可能です(ただし、理由無く拒否すると労働基準監督書の心証が悪くなります)。
(2) 臨検監督への対応
臨検監督を拒否すると罰金の罰則を受けると定められています(労働基準法120条)。
実際には直ちに罰則となる場合は少ないですが、理由もなく拒否をして立ち入り調査を拒んでいると、前触れ無く強制捜査を受ける可能性が高まります。
臨検監督に対しては、可能な限り誠実に対応するべきです。
(3) 具体的な対応
仮に労働関係法令を遵守した体制が整っていない場合でも、その場ですぐに送検されるようなことはまずありません。
監督官が求めることに対して誠実に答え、不備があれば是正報告を行います。
事実を隠蔽して虚偽報告などを行うと、悪質と判断されて送検されて処分を受けるリスクが高くなるので注意が必要です。
5.まとめ
労働基準監督署からの呼び出し・臨検監督をされた場合、背後に労使トラブルの火種を抱えている事例が多くあります。このような場合にも、弁護士への相談をおすすめします。
また、日ごろから適切な労務管理を行い、労働基準監督署の監督の対象とならないような体制をしっかりと作っておくことも重要です。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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