雇用契約でない場合
労働基準法は、「労働契約を結んでいる当事者(使用者と労働者)」に適用される法律です。
したがって、会社と相手方の間に労働契約が締結されていない場合(実際の契約形態は請負契約である場合等)には、労働基準法の適用を受けないことから、割増賃金である残業代の支払い義務も生じないことになります。
よって、会社は、「労働契約が締結されていない(労働基準法の労働者に当たらない)」ことを反論として主張することができます。
ここでは、労働基準法上の「労働者」(雇用契約を結ぶ者)とは何かについて説明します。
1.「労働者」とは
労働基準法が適用されるためには、同法で規定されている「労働者」である必要があります。
労働基準法上の保護を受けるためには、単に、一般的に労働者と呼ばれる立場にあるというだけでは足りず、「労働基準法上の労働者」と言えなければなりません。
特に問題となるのは,請負や業務委託などの形態で労務を提供している場合です。
この場合、会社は「労働契約・雇用契約でないため、労働基準法にいう労働者ではないから、労働基準法の規定は適用されない」という反論をすることになります。
それに対し、相手方は「形式的には請負契約であるが、実態は労働契約である(偽装請負である)」といった主張をすることが予想されます。
なお、労働組合法や労働契約法でも「労働者」という概念が用いられていますが,これらの法律における労働者と労働基準法上の労働者とは、その範囲が異なります。
2.労働基準法における「労働者」
労働基準法第9条によれば、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています。
すなわち、労働基準法上の労働者に当たるかどうかについては、職業の種類は問われませんが、事業や事務所で「使用」され、かつ、賃金を支払われているという要件が必要となってきます。
(1) 「使用される」
労働基準法9条の「使用される」をどのように解釈するかについては、様々な見解があります。
一般的な解釈としては、「使用される」とは、①「指揮監督下の労働」であるかどうか、及び②支払われた報酬が「労働の対価」であるかどうかという2つの観点によって判断されるとされています(昭和60年12月19日労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」参照)。
この2つは「使用従属性」とよばれ、種々の諸要素を綜合考慮して総合判断することにより判断されることになります。
使用従属性の判断基準としては、以下の要素があります。
①「指揮監督下の労働」に関する判断基準
・仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無
・業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
・その他通常予定されている業務以外の業務の有無など
・拘束性の有無
・代替性の有無
上記の要素に基づき、実質的に使用者の指揮命令に服しているか、という点から判断されます。
会社からの依頼や業務従事の指示に対して諾否の自由があり、業務を行うにあたって具体的な指揮監督を受けず、広範な裁量が与えられているような場合には、「指揮監督下の労働」であると認められにくい傾向にあります。
②報酬の労務対価性に関する判断基準
・労働の結果による較差が小さいこと
・残業代の支払があること
・その他賃金性があるかどうか
報酬が「仕事の完成」に対するものであり、時間外手当や休日手当などが支給されておらず、定期的に一定額の報酬を支払うことが約束されていないような場合には、報酬の労務対価性が否定されやすくなります。
この他に、労働者性の判断を補強する要素として、事業者性の有無があります。
以下の要素により、会社組織から独立した事業者であるといえる場合には、労働者性が否定されやすくなります。
・機械・器具の負担関係、報酬の額
・その他事業者との性格を補完する要素
・専属性の程度
・他社業務への従事の制限の有無
・固定給など報酬の生活保障的性格の有無
・その他使用者が労働者と認識していることを推認させる事情
(2) 賃金性について
賃金とは、名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。
労働契約における「賃金」が一定時間労務に従事していたことに対して支給されるものであるのに対し、請負契約における報酬は仕事の完成に対する対価となります。
このように、労働基準法上の労働者性は実質的に判断されます。
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