1.偽装請負とは
「偽装請負」とは、形式的には請負契約を締結していながら、実態としては労働者派遣を行っている場合をさします。
請負は「仕事の完成」を目的とする契約で、注文者と請負人の間に指揮命令関係はありません。他方、労働者派遣の場合、派遣労働者と派遣先の会社との間には指揮命令関係があります。
具体例を挙げて説明させていただきます。ある業者Xが、業者Yに工事を発注し、Xを注文者、Yを請負人とする請負契約を締結したとします。そして、Yは雇用している労働者AをXの事業所に派遣したとします。
ここで、AがXの指揮命令下になく、自分で独立して工事を行っていれば、請負契約として問題はありません。しかし、AがXの指揮命令の下で働いていた場合、実態としては請負契約ではなく労働者派遣になっているため、偽装請負であると考えられます。
他にも、業者Xが業者Yに仕事を発注し、さらにYは別の業者ZにXから請負った仕事を発注したとします。そして、Zに雇用されている労働者がXの現場に行ってXやYの指揮命令にしたがって仕事をしている、というパターンもあります。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンで、使用者不明型と言われます。
2.偽装請負が起こる理由
では、なぜ偽装請負が起こるのでしょうか。それは、労働法や労働者派遣法の規制から逃れるためです。
仮に労働者派遣法が適用されると、建設業務など厚生労働省の認可なしには事業はできず、雇用契約が成立している労働者派遣では、合理的理由がない限り、雇用主(派遣会社)の都合で契約解除はできません(労働契約法17条)。また、労働者が業務の過程で第三者に損害を発生させた場合、労働者に悪意や重大な過失があった場合を除き「使用者責任」となり、雇用主(派遣会社)が賠償責任を負います。(民法715条)。
特に、建設業にとって最大の問題点は、労働者派遣法において、建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいいます)について、労働者派遣が禁止されていることです(労働者派遣法4条1項2号)。偽装請負を認めてしまえば、このような労働者派遣法の規制が無意味なものになってしまいます。
このように、労働者派遣法や労働法の規制を潜脱するために、請負を装った労働者派遣、すなわち偽装請負がおこるのです。
3.偽装請負の罰則等
(1)罰則等
偽装請負が発覚した場合、派遣先は無許可事業主から労働者派遣を受けているとみなされ(労働者派遣法第24条の2)、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(労働者派遣法59条2号)が課せられます。また、違法な労働者供給事業として、発注者も受注者も「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(職業安定法第64条9号)が課せられることになります。
加えて、厚生労働大臣は、発注者と受注者の双方に対して、行政指導(労働者派遣法48条第1項)、改善命令(同49条)、勧告(同49条の2第1項)、企業名の公表(同49条の2)を行うことができます。企業名が公表されてしまえば、誰でも調べることができますし、場合によってはメディアによって報道されることもあります。
(2)労働契約申込みみなし制度
上記のような罰則とはことなりますが、労働者派遣法において、派遣先企業が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、派遣労働者に対して派遣会社と同一の労働条件とする契約申し込みをしたとみなす制度があります(労働者派遣法40条の6)。
この制度によって、派遣先の会社が「労働契約の申込みなどしていない。」と主張したとしても、労働契約の申込みをしたものとみなされます(なお、この申込みは1年間の間撤回できません)。派遣労働者が契約の申し込みに承諾すれば、当該派遣労働者と直接に労働契約を締結しなければならないことになります。
4.偽装請負対策
偽装請負と判断された場合、上記のような罰則等を科される可能性があります。そこで、偽装請負を防止するための対策についてご説明させていただきます。
(1)請負契約の明確化
上述のとおり、派遣先が労働者に対して「指揮命令」している場合には、偽造請負と判断されます。そのため、派遣先が請負会社の労働者に指示命令を直接行うと、発注元が労働者に指揮命令を与えたと判断され兼ねません。
そのため、請負契約を締結するにあたって、事前に仕様書等を詳細に定め、業務に変更が生じた場合の手続も明確にしておく必要があります。どうしても指揮命令する必要がある場合は、請負会社に連絡し、請負会社から当該労働者に指揮命令してもらう等の対応をすることになります。
(2)契約の切り替え
どうしても労働者に指揮命令する必要がある場合には、契約の切り替えを行うべきです。
このとき、労働者派遣という形にするのか、労働者を直接雇用するのかは、労働者をどのような業務に従事させるかによって判断します。
先述のとり、労働者派遣法では、建設業務を行う場合には派遣労働者を受け入れることが禁止されているので、労働者を建設業務に従事させる場合には、当該労働者と直接労働契約を締結すべきでしょう。
(3)まとめ
このように、偽装請負の問題は法律的にも非常に複雑な問題です。請負契約の内容等にお悩みのお客様は、是非弊所にご相談ください。