1.労働安全衛生法とは
労働安全衛生法とは、「職場における労働者の安全と健康の確保」や「快適な職場環境の形成促進」(法1条)を目的とする法律です。昭和47年に制定された法律で、もともと労働基準法の中に定められていましたが、労働災害の増加という背景があり、独立した法律として制定されることになりました。
労働者の安全・健康を確保するためには、労働者自身が注意するのはもちろんですが、事業者側がさまざまな措置を講じる必要もあります。そこで、この法律には、先述した目的を達成するため、事業者が果たすべき義務や、機械や危険物、有害物に対する規制に加え、法に違反した場合の罰則など、様々な規定が置かれています。
このページでは、労働安全衛生法にどのようなことが規定されているのかご説明させていただきます。
2.事業者が講じるべき措置その1
(1)スタッフの配置義務
労働安全衛生法は、第3章において、労働者の安全衛生を確保するため、さまざまなスタッフを配置することを義務づけています。
事業場の場所や人数、事業の内容などによってどのようなスタッフの配置が義務付けられているのかはことなります。総括安全衛生管理者、産業医、安全委員会など、様々なスタッフの配置が義務付けられています。
(2)労働者への安全衛生教育
法第59条および第60条では、安全衛生に対する労働者の意識向上をはかり、事業者が労働者の生命や健康を守るため、労働者に安全衛生教育を行わなければならないと定めています。
例えば、労働者の「雇い入れ時」や「作業内容の変更時」には、対象の労働者に安全衛生について教育を行うことが義務付けられています。また、新任の職長や指導・監督者に対しては、労働者の配置や労働者に対する指導の方法などについて、安全衛生の観点からの教育をすることが義務付けられています。
3.事業者が講じるべき措置その2
(3)労働災害防止に向けて講じるべき措置
労働安全衛生法第4章では、労働災害防止に向け、事業者が講じるべき措置について規定しています。
例えば、機械などの設備により、爆発・発火などの事態が生じる場合(法21条)や、ガスや放射線あるいは騒音といったもので労働者に健康被害が生じるおそれがある場合(法22条)には、これらを防止する措置を講じなければならないとされています。
労働災害を防止するための具体的措置については、労働安全衛生規則に規定があります。
例えば、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合には、強風、大雨等の悪天候の場合には、作業を禁止しなければなりません(労働安全衛生規則第522条)。また、作業のため物体が落下することにより労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは、防網を設け、立入禁止区域を設定するなどの措置を講じなければなりません(規則537条)。その他にも、足場の材料や組み立て方についても規定があります。
(4)労働者の健康保持
労働安全衛生法第7章において、労働者の健康保持のために事業者が講じるべき措置が規定されています。人間にとって有害な物質を扱う作業場などでは作業環境測定(空気がどれだけ汚れているかなどを分析することです)を行う義務や、定期的に健康診断を行う義務などがあります。
(5)職場環境を整える義務
労働安全衛生法第71条の2では、事業者に対し、労働者が快適に業務に従事できるよう、職場環境を整える義務が課されています。なお、この義務は努力義務(義務に違反しても法的制裁がない義務)とされています。
具体的な措置については、厚生労働省が公表する「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」に記載されています。例えば、空気環境・温熱環境を整えたり、外部からの騒音を有効に遮断する等の措置を講じたりすることが望ましいとされています。
4.罰則
上記のように、労働安全衛生法には様々な義務が定められています。そして、労働安全衛生法第12章には罰則規定があります。
平成31年・令和元年の1年間で、労働安全衛生法違反で送検された事件のうち、建設業は全体の56.7%を占めています。そのため、建設業に携わるお客様にとって、労働安全衛生法は極めて重要な法律といってよいでしょう。
主な罰則としては、高圧室内作業、その他労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、定められた技能講習を受けた作業主任者を選任しなかった場合や、労働者の危険防止や健康障害防止等に必要な措置を講じなかった場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(法117条)。
労働安全衛生法違反で送検された場合、労働基準監督署が事案の概要や企業名を公表することがあります。また、起訴された場合、報道機関によって報道される可能性もあるので、取引先等から取引の中止を言い渡される可能性もあり、被る不利益は甚大です。
刑事手続においては、送検・起訴されないよう、早期に対応することが必要不可欠です。労働災害を防ぐ手立てを講じる方法がよくわからない場合や、実際に労働災害が起きてしまった場合など、お悩みのお客様は、ぜひ一度弊所にご相談ください。