解雇理由(兼業・秘密漏洩・多重債務など)
ここでは、今までに説明した以外の問題行動による解雇の可否について説明します。
1.競業行為・兼職(副業)
就業規則上、競業や兼業を禁止する会社は多くあります。
もっとも、勤務時間外の時間については、本来、使用者の支配が及ばず、労働者が自由に利用できます。
そのため、競業行為や兼職が職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じさせない程度・態様の二重就職は禁止規定に違反しないと考えられます。
したがって、短期のアルバイト等の一時的雇用や自宅で行う株式投資などは、原則として禁止される兼業に含まれないといえます。
ただし、当該兼業が、就業規則の兼業禁止規定に違反するか否かは、兼業の業務の内容をみて判断する必要があります。
そのため、一時的雇用であっても、労働者の誠実に労務提供をする義務に違反するような業務に従事する場合は、就業規則の兼業禁止規定に違反するとされる可能性があります。
例として、連日の深夜業務により疲労が蓄積し、日中の会社での業務の生産性が著しく低下しているような場合は、兼業禁止に違反すると考えられます。
また、兼業の内容・兼業先によっては、会社の信用問題となったり、企業秘密やノウハウ等を漏えいしたりすることにより、企業秩序を乱し会社に損害を与える場合もあり得ます(同業他社への兼職等)。
ただし、このような場合でも、いきなり懲戒解雇を行うのではなく、事情聴取の上、適宜注意・指導を行うに留め、その後の状況次第では一定の懲戒処分を検討することになるでしょう。
なお、近年は、インターネットの発達に伴ってクラウドソーシングのような業務委託形態が普及したこともあり、従業員が業務時間外に副業を行うことが容易になっているといえます。
今後は、副業の可否に関して、より柔軟な対応が必要となる場合もありうると考えられます。
2.経歴詐称
(1) 経歴詐称と解雇
経歴詐称とは、労働者が企業に採用される際に提出する履歴書や面接等において、学歴・職歴・犯罪歴・病歴などを詐称し、もしくは真実を秘匿することをいいます。
経歴詐称は、信義則上の真実告知義務に反し、企業秩序を侵害するものとして懲戒解雇事由となり得ます。
もっとも、経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効とされるのは「重要な経歴」を詐称した場合であることが必要です。
「重要な経歴」とは、偽られた経歴について、使用者が正しい認識を有していたならば、雇用契約を締結しなかったであろう経歴を意味します。
(2) 懲戒解雇事由となる経歴詐称
①学歴
最終学歴を高く詐称する場合のほか、低く詐称する場合も含まれます。
ただし、採用にあたり学歴不問とされている場合は、学歴について真実を告知する義務はないので、学歴詐称があったとしても、懲戒解雇事由には該当しません。
②職歴
大学入学の事実がないのを「大学中退」と、警察官の経歴が1年5か月しかないのを「9年勤務」と詐称した場合は、重要な経歴の詐称にあたります。
また、タクシー乗務員の経験があるのに未経験者として申告し、従前の勤務先への問合わせを免れることも懲戒解雇事由に該当します。
③犯罪歴
申告が必要なのは、確定した有罪判決であり、刑の消滅した前科については、原則として告知義務はないとされています。
④病歴
労働能力に影響するような持病を申告しなかった場合は、懲戒解雇事由には該当します。重機運転手の業務に就くにあたり、視力障害があることを告げないことは、懲戒解雇事由には該当しないとされています。
⑤年齢
定年まで2年9か月しかないのを、14年9か月もあると年齢を低く詐称してマッサージ師に採用された場合は、懲戒解雇事由には該当するとされています。
3.情報漏洩
(1) 秘密保持義務
労働者は、労働契約を締結することにより、労働契約上の付随義務として、誠実義務を負っています。使用者の秘密を保持する義務(秘密保持義務)もこの中に含まれます。
一般的な就業規則には秘密保持義務が規定され、労働契約の内容となっていることが多く、使用者は、労働者による秘密保持義務違反に対して、懲戒処分や損害賠償請求などを行うことが可能となります。
ただし、秘密保義務は、第三者への企業情報の開示を禁止するものです。情報を企業外へ持ち出したこと(社外秘の書類を自宅へ持ち帰る等)だけで直ちに秘密保持義務違反となるわけではありません。
(2) 秘密とは
保持されるべき「秘密」とは、非公知性のある情報であって、これが企業外に漏れることで企業の正当な利益(顧客からの信用を含む)を害するものであると解されています。
また、個人情報保護法によって、使用者が(顧客等の)第三者に対して保護義務を負う個人情報については、当然、労働者も秘密保偽義務を負います。
(3) 秘密保持義務違反とならない場合
内部告発等、正当性のあるものについては義務違反とならないと解されています。
また、労働問題等について弁護士に相談するために企業情報を許可なく開示することは、弁護士が弁護士法23条による守秘義務を負うことや、権利救済のための必要性から、秘密保持義務違反とはならないと考えられます。
4.破産・多重債務
従業員が多数のローン会社等から多額の債務を抱え、給与の差し押さえを受けてしまったり、自己破産の申立てをして破産宣告を受けたりする場合があります。
もっとも、一般的には、上記のような事情だけでは解雇理由とはなりません。また、同様に直ちに懲戒処分を行うことも難しいでしょう。
ただし、当該従業員が経理や財務など金銭を扱うという業務に従事している場合は、適格性がないとして配置転換などの措置を講じることは可能です。
特に、特定の業種については、法律上、破産者は一定期間当該業務に就くことができないことから、それを理由に配置転換をすることは必要かつ合理的な措置であると言えます。
また、管理職として問題があるとして、人事権の行使として役職の降格(降職)を行うことも可能です。
このように、会社は、解雇以外の措置により対応することが求められていると言えます。
【注意】
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