労働条件変更と解雇(変更解約告知)
変更解約告知とは
変更解約告知とは、新たな労働条件での労働契約再締結の申し入れを伴った解雇のことをいいます。すなわち、使用者は、労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の申込みを行うことになります。労働条件変更の申し入れに応じない労働者の解雇をこれに含めることもあります。
変更解約告知が有効に行われた場合、労働条件変更に同意する労働者は新たな労働条件で労働契約を締結しなおすことになり、変更に同意せず従前の労働契約の存続を望む労働者は、一旦解雇されます(裁判等でその効力を争うことになります)。
変更解約告知は、個別的な労働条件変更のための新たな手法となりつつあります。
もっとも、変更解約告知に関する法律上の規定はなく、判例上の効力の判断枠組みも確立しているとはいえないことから、慎重に行う必要があるでしょう。
2.裁判例・スカンジナビア航空事件(東京地方裁判所平成7年4月13日決定)
(1) 事案
外国航空会社であるY会社は、業績不振による合理化策の一環として、日本支社の日本人従業員(地上職員・客室乗務員)全員に対し、退職金割増を伴う早期退職募集と年俸制導入、退職金・労働時間制度の変更、契約期間の導入等の契約条件変更を伴う再雇用を提案した。
全従業員140名のうち115名は早期退職募集に応じたが、申立人Xら(9名)を含む25名は応募しなかった。Yは、Xらに対して再雇用の場合の職位(ポジション)と年俸を示した上で、再度の早期退職と再雇用への応募を促したが、Xらが応じなかったため、Xらを解雇した。
Xらは解雇の無効を主張してYの従業員たる地位の保全等の仮処分を申し立てた。
(2) 判決の概要
Xらに対する解雇の意思表示は、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知と呼ばれるものである。
変更解約告知が行われた場合、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社の業務運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足るやむを得ないものと認められ、かつ、解雇回避努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。
本件においては、賃金、退職金、労働時間の変更にいずれも高度の必要性が認められ、Xらにこれを上回る不利益があったとはいえず、解雇回避努力も十分に尽くされている。よって本件変更解約告知は有効であり、Xらに対する解雇は有効である。
(3) 解説
上記裁判例は、変更解約告知法理を正面から認めたうえで、同法理の下で労働条件変更に応じない労働者の解雇が有効とされるための要件として①労働条件変更が会社の業務運営上必要不可欠である、②その必要性が労働条件変更によって労働者が被る不利益を上回っている、③労働条件変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足るやむを得ないものと認められる、④解雇回避努力が十分に尽くされている、という4点を示していいます。
他方で、裁判例の中には、法律上に明文がないこと等を理由として変更解約告知法理を否定し、解雇の効力を通常の解雇権濫用法理の枠組みで判断したものも存在しています(大阪労働衛生センター第一病院事件 大阪地方裁判所平成10年8月31日)。
変更解約告知の有効性は、今後の裁判例や学説等の展開に委ねられている状況にあります。変更解約告知を行う場合、通常解雇と同様に判断される可能性があることも視野に入れて対応する必要があるでしょう。
3.留保付承諾の可否
労働者が変更解約告知に対して労働条件変更の正当性を争うことを留保しつつ労働条件変更の申し入れを承諾(=同意)する「留保付承諾」が認められるかが問題となります。
民法528条によると、留保付承諾=条件付の承諾は承諾拒絶として扱われるので、留保付承諾は認められないという見解もあります。
裁判例においては、労働条件変更に応じない労働者の雇止めの適法性が争われた事件で、労働者が留保付承諾をしていたことを理由の一つに挙げて雇止めを不適法とした地裁判決が存在します。
もっとも、同事件の控訴審判決では、このような考え方は否定されています(日本ヒルトンホテル(本訴)事件・東京地方裁判所平成14年3月11日判決、東京高等裁判所平成14年11月26日判決)。
この点についても、今後の裁判例の集積や、立法による解決を待つことになるでしょう。
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