解雇理由(犯罪行為)
労働者が犯罪行為を行った場合、それが業務上行われたものか、業務外(私生活上)で行われたものかによって対応が異なります。
1.業務上の犯罪(社内犯罪)
従業員が、自身が管理する会社の金銭を着服するといった横領行為や、社内の金品を盗み出すような窃盗行為を行った場合、解雇処分を行うことができます。
ただし、このような事案において懲戒解雇処分を行う場合、刑事処分に準ずる程度の慎重な手続と事実確認が必要となります。
従って、この種の事案で懲戒解雇が有効になるためには、横領等の行為の裏付けとなる客観的証拠の収集・確認を行い、更に当該従業員に弁解の機会を与えることが必要となります。
このような慎重な確認作業を経た上で、懲戒解雇等の相当性を判断し、然るべき処分を決定しなければなりません。
そのような手続を経ずに懲戒解雇を強行した場合、無効となる可能性が高いと言えます。
もっとも、横領等の財産上の犯罪の成否を検討する上では、「不法領得の意思」(権利者を排除して他人のものを自己の所有物として振る舞い、その経済的用法に従い利用又は処分する意思)の有無など、法的な知識に基づく専門性の高い判断が求められます。
そのため、会社としては、まずは刑事事件として警察に被害届を提出して告訴を行い、捜査の進捗を見守りつつ処分を決するのが良いでしょう。
上記で説明したことは、横領や窃盗のような財産上の犯罪に限らず、暴行・脅迫等の他の類型の犯罪行為においてもあてはまると言えます。
2.業務外(私生活上)の犯罪行為
(1) 私生活上の非行について
多くの会社の就業規則には、「会社の名誉・信用を毀損したとき」、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由が定められています。
労働者には、雇用契約上の付随義務として誠実義務が生じ、その中には、使用者の名誉・信用を毀損しない義務があります。
よって、労働者の就業時間外の私生活上の非行であっても、それが企業秩序と関係があるものについては懲戒(解雇)の対象となるといえます。
(2) どのような場合に解雇が許されるか
労働者が私生活上の非行を行ったからといって、一概に懲戒解雇ができるわけではありません。
裁判例の多くは、その行為が業務に影響を及ぼしたり、あるいは会社の信用を棄損するなど、職場秩序を乱す場合には、解雇などの不利益処分の対象となしうるとの立場をとっています。
ただし、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益まで必要とするものではありません。 以下のような事情を総合考慮することにより、解雇(懲戒解雇)の相当性を判断しているといえます(日本鋼管川崎製鉄所事件・最高裁判所昭和49年3月15日判決)。
・当該行為の性質、状況(事案の軽重)
・会社の事業の性質、態様、規模
・会社の経済界に占める地位、経営方針
・その従業員の会社における地位、職場
もっとも、重大な事案であっても、逮捕されたことのみをもって即時に解雇することには問題があります。逮捕されたからといって、有罪であるとは限らないためです。
実際に、逮捕・検挙された事件の約6割は起訴に至っておらず、嫌疑不十分で不起訴になったり、起訴猶予になる事案が多くあります(冤罪事件のように、全くの無実である場合もあります)。
そのような場合、後に解雇等の懲戒処分が無効とされる可能性があります。
会社側の現実的な対応として、逮捕後直ちに労働者を解雇するのではなく、一旦休職(起訴休職)させた上で、有罪確定後に処分を決定する、といった措置についても検討した方が良いでしょう。
3.犯罪の類型と解雇の有効性
(1) 強姦罪など性犯罪
強姦罪など性犯罪については多くが解雇有効となっています(丸和海運事件・神戸地方裁判所昭和53年3月3日判決、国鉄厄神駅職員事件・大阪地裁昭和55年8月8日判決、大津郵便局事件・大津地裁昭和58年4月25日判決)。
これは、性犯罪が被害者の性的自由を侵害する悪質な犯罪であり、会社の信用を大きく損なうものであること、企業秩序や職場環境に対する悪影響が大きいことが背景にあるものと考えられます。
(2) 交通事故・飲酒運転、スピード違反
事案の態様・軽重によることはいうまでもありませんが、交通事犯については、会社や当該従業員の業務の内容が運転業務に関するものであるか否かが重要なポイントになります。
① 無効とされた例
・休日に飲酒のうえ歩行者を死亡させる交通事故を起こし、禁固10月執行猶予3年の確定判決を受けたことについて、解雇は均衡を失するとされた事例(住友セメント事件・福岡地方裁判所小倉支部昭和48年3月29日判決)
・業務外の道路交通法違反により起訴され罰金の略式命令を受けたことについて、解雇は重きに失するとされた事例(鳥取市農協事件・鳥取地方裁判所昭和49年5月24日決定・労働判例203号)
② 有効とされた例
・バス会社のバス運転手が休日に多量に飲酒したうえでマイカーを運転し、罰金刑に処せられた場合、バス会社として運行の安全確保を至上命令とし、日頃から従業員に対してきびしく注意していたなどの事情を考慮して解雇は有効とされた事例(千葉中央バス事件・千葉地方裁判所昭和51年7月15日決定)
・本人が酒気帯び運転をしたわけでなくとも、タクシー会社の運転手が同僚に酒をすすめて飲ませたうえ、同人の運転する自家用車に同乗するなどした事案について、懲戒解雇事由である「酒気を帯びて自動車を運転したとき」と同等の行為と認められるとして懲戒解雇が許されるとした事案(笹谷タクシー事件・最高裁判所昭和53年11月30日判決)
もっとも、近年は飲酒運転等の悪質な交通違反に対して厳しい目が向けられ、刑罰も重くなっています。
刑法の改正により、かつては業務上過失致死罪(最高刑:懲役5年)で処罰されていた死亡事故事案は、現在では自動車運転過失致死罪(最高刑:懲役7年)あるいは危険運転致死罪(最高刑:懲役20年)で処罰されています。
したがって、上記裁判例の事案と同様の行為を労働者が行った場合であっても、解雇の有効性について異なる判断がなされる可能性があります。
【注意】
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