施設運営での注意点1(総論:法令上の義務)
1.高齢者福祉サービス義業者が負う義務
高齢者福祉サービス事業者が負う義務には、利用者との契約によって生じる契約上の義務と、介護保険法等関係法令によって生じる法令上の義務の2つがあります。 このページでは上記のうち、法令上の義務について、各法令がどのような義務を事業者に課しているのかについてご説明いたします。
2.高齢者虐待防止法に基づく義務
高齢者虐待防止法
高齢者に対する虐待が社会問題化したことから、平成18年4月1日に高齢者虐待防止法が施行されました。施設内での虐待の発生は、事業に対する信用を損なうものであり、事業者としては、虐待の発生を予防するための対策を講じるとともに、虐待が発生した時には速やかに対応する必要があります。
事業者の義務の内容
(1)同法は、養介護施設の設置者・養介護事業者に対し、従事者等に対する研修の実施、利用者や家族からの苦情の処理体制の整備その他従事者等による高齢者虐待を防止する措置の実施(同法20条)などの義務を課しています。
(2)また、養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等が、その業務に従事している養介護施設又は養介護事業において、業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報する義務負っています(同法21条1項)
(3)なお、事業者自身の義務ではありませんが、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者には、
- ア.当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報する義務(同条2項)が、
- イ.上記以外の場合は速やかに、これを市町村に通報する努力義務(同条3項)が、
課されています。
3.情報管理義務
守秘義務
医師については、刑法(134条1項)、看護師については保健師助産師看護師法(42条の2)において、守秘義務が課され、罰則も定められているところですが、介護事業関係者についても、介護保険法についての厚生労働省令や条例による運営基準等で、守秘義務が定められています。
介護に関する情報は医療情報と同様にセンシティブであり、情報の漏洩によって、施設内にとどまらず、施設外の人間関係に影響が及ぶこともあるため、介護事業者においては守秘義務は重要な義務と認識し、遵守しなければなりません。
個人情報保護法及びガイドライン
個人情報保護法も、事業者が取得した個人情報の適切な管理を求めています。
かつては、個人情報保護法の適用対象とされるのは、体系的に整理された個人情報(個人データ)を5000件以上保有する事業者に限られていました。
しかしながら、平成29年5月30日以降、保有している個人情報が5,000件未満の事業者であっても、適用の対象になっています。
また、介護事業者に対しては、厚生労働省により「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(平成16年12月24日通知)が定められており、医療・介護関係者が同ガイドラインを遵守することが求められています。
個人情報において重要なことは、以下の4点です。
- 情報を必要なく収集しないこと。
- 収集の際には目的を明らかにすること。
- 情報を適切に管理すること。
- 管理する情報を適切に開示すること。
また、高齢者福祉サービス事業者においては、ケアカンファレンスや高齢者虐待防止ネットワークにおける情報共有の問題や、利用者の親族からの情報開示請求の問題があり、これらを見越して個人情報の取扱いについて利用者の同意を得ておく必要があります。
4.記録作成等に関する義務
介護保険法に基づく義務
介護保険法は、介護保険対象事業者の運営等にかかる基準を、厚生労働省令に定めるところに従って、条例で定めるものとしています。そして、同基準には記録の作成、保存及び開示義務について規定があります。
「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」によれば、訪問介護事業者については従業者、設備、備品及び会計に関する記録の整備を義務付けている(同基準39条1項)ほか、訪問介護計画や、サービス提供の記録、受け付けた苦情についての記録等を整備し、サービス完結の日から2年間の保存を義務付けています(同条2項)。
これらの情報について、個人情報保護法は、一定の範囲で開示義務を定めていますが(同法28条)、上記運営基準では、これに加え、サービス提供内容等についての情報提供義務を定めています(同基準19条2項等)。
その他の高齢者福祉サービス
有料老人ホームについては、老人福祉法29条4項及び5項等が、サービス付き高齢者向け住宅については、高齢者住まい法19条等が、記録の作成、保存及び開示等に関する規定をおいています。
記録を作成及び保存することの意味
記録を作成及び保存することは、利用者のためのみならず、事業者側にも利益をもたらします。
高齢者福祉サービスの運営者としては、個々の職員の業務内容を把握することはなかなかできませんが、職員に業務内容を記録させていれば、記録を見ることである程度状況を確認することができます。
また、職員としても、記録による報告義務から、適正に業務を行うことに対するモチベーションが働くことになります。
また、介護事故が発生した場合も、記録を詳細かつ正確に作成しておくことで、真実に即した説明が可能になります。その結果、利用者や利用者の家族から納得を得やすくなり、紛争の拡大を予防することが期待できます。
さらに、行政による実地指導や監査では、第一次的に、整備記録の確認が行われます。これらの手続をスムーズに受けるためにも、正確な記録の作成及び整備は重要です。
以下、詳細ページのご案内です。
- 高齢者福祉サービスとは(総論:種類・事業主体)
- 高齢者福祉サービスの内容1(訪問介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容2(通所介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容3(介護施設サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容4(高齢者向け住宅)
- 介護保険制度とは(総論)
- 施設利用契約の注意点1(書面作成、契約内容)
- 施設利用契約の注意点2(認知症の場合)
- 施設利用料の滞納
- 施設運営での注意点1(総論:法令上の義務)
- 施設運営での注意点2(利用者の身体拘束)
- 施設運営での注意点3(医療行為)
- 成年後見制度の利用1(総論、高齢者の財産管理)
- 成年後見制度の利用2(医療行為の同意)
- 成年後見制度の利用3(任意後見制度)
- 身寄りのない利用者が死亡した場合1(後処理)
- 身寄りのない利用者が死亡した場合2(死後事務委任)
- 施設の事業譲渡
- 施設の自己破産