身寄りのない利用者が死亡した場合2(死後事務委任)
1.死後事務委任契約とは
高齢者が、自らの死後に発生する事務について、生前にあらかじめ特定の者に委任する契約のことを死後事務委任契約といいます。死後事務委任契約は、委任者の死亡によっても、その効力が失効しない旨の特約を付して行います。
この死後事務委任契約は、委任者の死亡によって委任契約は終了すると定めている民法653条1号に反し無効ではないかとも考えられていました。
しかし、最高裁判所平成4年9月22日判決は、明示の特約がない場合でも、委任者の死亡によっても委任契約が終了しない場合があることを認めており、委任者の死亡によっても、その効力が失効しない旨の特約を付しておけば、委任者の死亡を理由に契約が終了することはないと考えられています。
人が亡くなると、下記の様な事務を行う必要が有ります。
- 通夜や葬儀
- 納骨、埋葬
- 電気やガス等の停止
- 入院していた病院や介護施設の費用の支払
- 自宅や介護施設の片付け
通常であれば、死後の事務は遺族が行うこととされており、法律も原則としてそれを前提に作られています。
遺族の方以外に、自分の死後の事務を依頼するためには、この死後事務委任契約を結んでおく必要があります。
死後事務委任契約のメリットは以下のとおりです。
- 周りに頼れる親族がいなくても、死後の事を心配する必要がなくなる。
- 葬儀や納骨の方法等、自分の希望を生前に伝える事ができる。
2.死後事務委任契約の委任者と受任者
以下のような方は、死後事務委契約を検討されるべきかと存じます。
- 独身の方や、子供のいない夫婦など、もしもの時に近くに頼れる家族・親戚のいない方
死後事務委任契約を結んでおかないと、葬儀や納骨を誰がするのかはっきりせず、結果として親戚や最後にお世話になった介護施設等に迷惑をかけてしまうおそれがあります。 - 家族や親族はいるが、遠方に住んでいるなどの理由で、面倒な死後事務を第三者に依頼したい方
- 家族・親族も高齢で、死後事務を依頼するのが不安な方
- 内縁関係のご夫婦、同性パートナーシップを結んでいる方
法律婚をしていない場合は、親族では有りませんので、原則として死後の事務を行う事が出来ません。その場合に備えて、パートナーに死後事務を委任する契約をしておけば、お互いに亡くなった後の備えになります。
上記(1)~(4)に該当する人は死後事務委任契約を検討すべきです。
死後事務委任契約を依頼する相手は、自由に選べますが、友人や知人、パートナーのような身近な方に候補者がいない場合、弁護士に委任すべきです。
弁護士は法律の専門家として各種法的手続に精通しているため、死後事務の処理を適切に行うことができます。また、死後事務委任契約書の作成においても、委任者のご意思を最大限尊重する内容の契約とすることが可能となります。
死後事務委任契約にかかる費用
死後事務委任契約を弁護士等の専門家に依頼する場合は、以下のような費用が発生します。
契約書作成料
契約書の作成を依頼した場合の手数料です。
死後事務処理手数料
死後の葬儀や納骨等の事務処理の手数料です。依頼の範囲により変動します。
公正証書作成手数料
死後事務委任契約書を公正証書にする場合には、公証人に支払う手数料です。1万1千円必要です。
以上の様な費用が必要になります。当事務所ではご希望を伺った上で費用のお見積りをいたしますのでお気軽にご相談ください。
3.死後事務委任契約締結の注意点
死後事務委任契約を行うタイミング
認知症等を発症して判断能力が低下すると、死後事務委任契約を依頼する事が難しくなります。
自身の死後の事が心配な方は、少しでも早く依頼すべきです。
死後事務委任契約書の内容
通常、死後事務委任契約に委任する事務の範囲として定める内容は、主に下記の5つです。
(1)親族等関係者への連絡に関する事項
亡くなった後に連絡して欲しい親族等関係者への連絡の範囲や方法を決めて記載をします。
(2)葬儀・納骨に関する事項
葬儀や納骨をどの様に行うのか、また、現時点で決まっていない場合は誰が決めるのかを記載します。
(3)生前に残っている債務(医療費や老人ホームの費用等)の支払方法
(4)家財道具等の処分権限に関する事項
(5)行政への届出に関する事項
死後に様々な行政への届出が必要ですが、その権限を委任している事を記載します。
(6)(1)~(5)にかかる費用の支払に関する事項
死後事務委任契約書は公正証書で作成する
公正証書とは、公正証書とは、公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書です。
公正証書で契約書を作成しておけば、委任者本人が生前に自分の意思で作成したという点を明らかにできますので、死後事務を行う際に相続人や親族とトラブルになるリスクを減らすことができます。
推定相続人・親族の同席の下で契約内容を確定する
死後事務委任契約は、委任する事務の内容によっては、推定相続人や親族の利益と相反する場合も考えられます。そのため、推定相続人や親族が、契約の存在や、委任内容を全く知らなかった場合には、トラブルになりやすいという問題があります(遺言書の存在を知らされていなかった相続人と同じ感覚です)。
トラブルを避ける方法としては、死後事務委任契約書の作成の段階で、推定相続人や親族の同席の下で、委任者の希望を確認しておくことによって、契約内容が委任者本人の希望と相違ないことを理解してもらうことが考えられます。
以下、詳細ページのご案内です。
- 高齢者福祉サービスとは(総論:種類・事業主体)
- 高齢者福祉サービスの内容1(訪問介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容2(通所介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容3(介護施設サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容4(高齢者向け住宅)
- 介護保険制度とは(総論)
- 施設利用契約の注意点1(書面作成、契約内容)
- 施設利用契約の注意点2(認知症の場合)
- 施設利用料の滞納
- 施設運営での注意点1(総論:法令上の義務)
- 施設運営での注意点2(利用者の身体拘束)
- 施設運営での注意点3(医療行為)
- 成年後見制度の利用1(総論、高齢者の財産管理)
- 成年後見制度の利用2(医療行為の同意)
- 成年後見制度の利用3(任意後見制度)
- 身寄りのない利用者が死亡した場合1(後処理)
- 身寄りのない利用者が死亡した場合2(死後事務委任)
- 施設の事業譲渡
- 施設の自己破産