賃貸借契約の合意解約
1.合意解約
賃貸人にとって最も負担が少ないのは、賃借人との間で合意解約ができる場合です。
また、賃借人にとっても、賃貸人に自身の希望を伝えて条件を調整した上で、合意により契約を終了できる方が良いと言えるでしょう。
そのため、明渡交渉においては、まずは合意解約を目指すことになります。
事案にもよりますが、1か月から2か月先に物件の明渡の期限を設定して、その間に賃借人に引越し先を見つけてもらう、といった合意をする場合があります。
賃借人の事情によっては、より長い期間を設定することもあります。建物を取り壊す予定がある場合は、原状回復義務を免除するケースが多いといえます。
また、賃貸人の都合で賃借人に転居してもらうことになるため、実費として引越代を支払うことも一般的です。
このような話し合いを行い、明渡しの合意ができれば、賃借人との間で合意解約書を締結します。
それをもって賃貸借契約は終了します。
2.解約の合意ができなかった場合
賃借人との話し合いがうまくいかず、合意解約が見込めない場合、賃貸人は更新拒絶あるいは解約申入れによる契約終了をすることになります。
もっとも、裁判において更新拒絶や解約申入れが認められるためには、今まで述べてきた「正当事由」が必要となります。
そこで、まずは「正当事由」が認められるかを判断するために必要な事情を把握する必要があります。
特に、賃借人がどの程度建物の利用を必要としているかなどは、重要な判断要素となります。
また、賃貸人としてどの程度の額の立退料であれば支払い可能か(譲歩できる上限)についても検討することになります。
賃貸人としては「できれば立退料を払いたくない」と考えている場合が多いと思われますが、実際に裁判になっている事例では、一定額の立退料の支払いを求められることが少なくありません。そのため、あらかじめ金銭面での妥協ラインについても考えておく必要があるといえます。
ここでは、賃貸人と賃借人の話し合いの結果、正当事由の有無を判断するのに必要な事情がある程度把握できた場合に、その後どのように交渉進めていくべきかについてお話します。
(1) 裁判になった場合に正当事由が認められる可能性が低い場合
正当事由が認められる可能性が低い例として
・賃貸人が建物を利用する必要性が明確でない
・賃借人がその建物に居住を続ける必要性が大きい
・賃借人が明渡しを断固拒否している
といった場合が考えられます。
このような事案では、裁判になった場合に明渡しが認められる可能性が低いといえます。
また、和解により解決するとしても、相当高額な立退料を支払わない限り、賃借人を説得するのは難しいと考えられます。
このような賃貸人に不利な状況にある場合、どこまで賃借人側に歩み寄るかなども含めて、今後の手続を再検討することになります。
正当事由が認められる見込みが低い場合、裁判を提起したのに結局敗訴してしまい、時間と費用が無駄になってしまうおそれがあります。
また、賃貸人の意に反して非常に高額な立退料の支払いを命じる判決が出てしまった、という結果となる可能性も否定できません。
正当事由が問題となる事案では、法律上、賃貸人の方が不利な立場にあるため、こうしたリスクについても考慮して慎重に判断する必要があるといえるでしょう。
(2) 裁判で正当事由が認められる見込みがある場合等
正当事由が認められる見込みがある場合や、賃貸人が希望する金額の範囲で立退料を支払うことで解決が見込めるような場合、話し合いを続けることになります。
正当事由が認められやすい場合として、
・建物が老朽化して建て替えが必要な場合
・賃貸人が当該建物を住居として使用する必要に迫られている場合(賃借人よりも必要性が大きい場合)
等が考えられます。
まだ更新拒絶や解約申入れの通知をしていない場合、内容証明郵便で賃借人に送付します。
更新拒絶の場合は期間満了の6か月前までに出さなければならないので注意が必要です。
なお、通知書を送付してから契約終了までの間(6か月間)は、双方が交渉する上で非常に重要な時期となります。
この期間を過ぎると、賃借人からすれば「賃借人が建物を不法占拠している」ということになり、他方、賃借人からすれば「契約が法定更新された」という状態になるため、合意による解決が難しくなってしまうためです。
そのため、この期間内に明渡しの合意を成立させることを目標に交渉を進めていくことになります。
実際に、この間の話し合いで妥協点を探り、双方の合意によって解決できる事例もあります。
(3) 裁判を視野に入れた交渉
話し合いで解決できない場合でも、相手方の立場や希望、要求を裁判の前に聞いておくことは非常に重要となります。
賃貸人による明渡の交渉においては、賃貸人の事情や今後の見通しについて十分検討した上で交渉を進めていく必要があります。
そのため、賃貸人側も十分な法的知識をもって計画的に対応する必要があります。
特に裁判となる可能性がある事案では、文書の作成、送付からその後の対応(交渉及び訴訟の準備等)について、早い段階から弁護士に相談した方が良いでしょう。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。