合意解約できない場合の対応
賃借人との交渉がまとまらず、明渡しの合意ができなかった場合は、訴訟を提起するか、調停を申し立てることになります。
調停とは、裁判所において、各分野の専門知識を持つ調停委員を交えて話合いを行い、双方が合意することで紛争の解決を図る手続です。
調停で合意が成立した場合、その結果は調停調書にまとめられ、裁判の判決と同様の効力を持ちます。
調停で合意ができれば、訴訟よりも早く紛争を解決することができ、費用も抑えることができます。
調停は当事者の歩み寄りにより柔軟な解決が可能ですが、合意ができなければ調停は不成立となります。
調停が不成立となった場合、紛争を解決するためには、裁判を提起することになります。
建物明渡請求事件では、先に調停を申し立てることも、最初から裁判を提起することも可能です。
どちらを選択するかは事案によりますが、双方の主張や要求の隔たりが大きく、話し合いでの解決が見込まれないような場合は最初から訴訟にする、という場合が多いといえます。
ここでは、訴訟を提起することになった場合の流れについて説明します。
裁判の大まかな流れは、
1.訴状の提出
2.期日の指定
3.訴状の送達
4.第1回口頭弁論期日
5.和解または判決
6.判決の送達
7.判決の確定
となります。
1.訴状の提出
訴状とは、訴えを起こす時に裁判所に対して提出する書面のことです。
訴状には1.相手方に対して、どのような内容の判決を求めるのか(請求の趣旨)、2.その判決を求める法的な根拠事実は何か(請求の原因)を簡潔かつ具体的に記載します。
訴状には証拠となる書類の写しなどを添付して提出します。
一般的な建物明渡請求訴訟において必要となる書類は以下のものがあります。
1.訴状
2.不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
3.固定資産評価額証明書
4.代表者事項証明書(原告又は被告が法人の場合)
5.予納郵便切手(約6,000円)
6.収入印紙(手数料)
7.証拠書類(概略)
・建物賃貸借契約書
・内容証明郵便(賃貸借契約の更新拒絶又は解約申入れを通知したもの)
・配達証明書(上記内容証明郵便についての配達証明書)
・正当事由を基礎づける資料(正当事由が問題となる事件の場合)
更新拒絶又は解約申入れによる賃貸借契約終了の場合、賃貸人側で正当事由があることを立証するための証拠資料を提出することになります。
必要な資料は事案により異なるため、ここでは説明を省略します。
実際に訴訟を提起する場合は、まず弁護士にご相談下さい。
2.期日の指定
訴状を裁判所に提出すると、1~2週間ほどして裁判所から第1回の期日が指定されます。概ね、指定から1か月くらい後の日が期日になります。
3.訴状の送達
期日が決まると裁判所は訴状の副本(原本の写し)と期日の呼出状を、相手方に郵送します。
この手続きを「送達」といいます。
書類が相手方に届かないと送達がなされていないことになり、裁判を開くことができません。
そのため、相手方が受け取らなかった場合、裁判所は改めて休日(日曜日)に配達する郵便を出したり、勤務先あてに出すといった手続がとられます。
それでもなお相手方が訴状を受け取らなかったような場合には、「付郵便送達(ふゆうびんそうたつ)」という手続がとられます。
この方法によれば、相手方がその住所地に住んでいることが確認できた場合、裁判所が訴状を送達すれば、実際に相手方が受け取らなくても、送達が完了したと扱われます。
4.第1回口頭弁論期日
相手方が出頭せず、何の主張反論もしない場合には、相手方は、原告の主張を認めたことになり、訴状で請求したとおりの判決がでます。
この場合、概ね第1回の期日から1週間くらいで判決の言い渡しになります。
もっとも、正当事由が問題となっている事案では、家賃滞納解除の場合と異なり、賃借人も自身の言い分を主張して争う場合が多いといえます。
他方、相手方が自身の言い分を主張し、原告側の主張を争う場合には、裁判は1回では終わりません。
相手方は、「更新拒絶・解約申入れに正当事由がないこと」を主張してくると思われます。
どの程度詳細な主張反論を必要とするかは、相手方の反論の内容によります。
正当事由事案の場合、相手方の主張に何ら根拠がないという例は少ないと思われます。
そのため、相手方の反論に対してどのように対応し、裁判官を説得するかをよく考える必要があるといえるでしょう。
5.和解または判決
裁判となった後も、相手方との間で和解を行うことができます。
和解は当事者の合意によって成立することから、判決と比べて、相手方が任意に明け渡してくれることを期待できる点があります。
正当事由が問題となる事案では、双方の主張立証により事情が明らかになった後、裁判官より「立退料を支払って解決する」という和解を提案されるのが一般的です。
その場合、両当事者間で具体的な立退料をいくらにするかについて話し合いがなされます。最終的には金額の合意が成立して事件が決着する、という場合が比較的多いといえます。
他方、和解が成立しなかった場合には、裁判官により判決が出されることになります。
原告が勝訴した場合、判決の内容は、被告(相手方)に対し、原告に建物を明け渡すことを命じるものとなります。
6.判決の送達
判決が出されると、裁判所は原告と被告に対して、裁判決を郵送で送達します。
判決が出てから裁判所が判決正本を発送するまで1週間程度かかる場合もあります。
相手方が判決を受け取らなかった場合には、訴状の送達の場合と同様の手続が必要となります。
なお、強制執行の際には、「相手方(被告)に判決を送達した」という裁判所の証明書(送達証明書)が必要となります。
7.判決の確定
判決が被告に送達されてから2週間が経過し、この間に相手方が控訴(判決に不服があるとして、上級の裁判所に再度の審理を求めること)をしなかった場合、判決が確定します。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。