解雇理由①勤怠不良・能力不足
1.勤怠不良による解雇
(1) 労働者の義務
労務提供は、労働契約上の労働者の義務です。
労働者は、就業規則等で定められた始業時間から終業時間までの一部について労務を提供する義務があることから、欠勤の権利や遅刻・早退・私用外出の権利は認められていません(ただし、病気や弔事等の正当な事由があっても欠勤等を認めない場合、使用者の権利濫用となりえます)。
従って、欠勤や遅刻・早退・私用外出等は、雇用契約上の義務違反(債務不履行)であり、普通解雇事由となります。
さらに、職場秩序の面から、正当な理由のない勤怠不良は懲戒解雇事由ともなります。ただし、かかる勤怠不良を理由とする解雇が有効と認められるためには、客観的に合理的な理由と社会通念上相当と認められる事が必要です(労働契約法16条)。
遅刻や早退がわずかな時間であれば、労務提供に大きな影響があるとは言えず、欠勤が数回あっても、他の日に適切に就労していれば、一応は労務を提供していると言えます。そのため、単に遅刻や欠勤が数回あるというだけでは解雇事由にあたりません。
(2) 判断要素
解雇の有効性の判断に当たっては、以下のような要素を考慮し、合理性と相当性を判断することになります。
①勤怠不良等の回数・程度・期間・態様(やむを得ない理由の有無等)
②職務に及ぼした影響
③使用者からの注意・指導と当該従業員の改善の見込みないし反省の度合い
④当該従業員の過去の非行歴や勤務成績
⑤過去の先例の存否等
従業員が、合理的な理由なく欠勤・遅刻・私用外出を頻繁に繰り返し、反省の態度がなく、上司が是正するように注意しても、これを改めないような場合は、当該従業員を解雇しうるといえます。
他方、やむを得ない理由のない欠勤等であっても、けん責等の軽い処分を重ねることより改善の機会を与えることなく、いきなり解雇を通告するような場合は、解雇の無効を主張される可能性があります。
2.能力不足による解雇
一般的には、雇用関係の維持ができないといえるような重大な能力不足がなければ解雇することできないと考えられます。
ただし、①新卒採用等、特別なスキル・役割・成果等を特定しない雇用の場合と、②地位が特定された幹部職員、職種・職務が特定された専門職の雇用の場合とでは、能力不足の判断基準が異なる為、分けて検討する必要があります。
(1) 新卒採用等、特別なスキル・成果等を特定しない場合
日本企業の慣習として、一般的に新卒の総合職として採用される者は、職種・職務の限定はなく社内における様々な職務を通じてキャリアを形成していくことが予定されています。
その様な状況を前提にすれば、単なる職務上の能力が不足していることを理由に解雇することは難しいといえます。
能力不足を理由とする解雇が認められるのは、当該労働者が著しい能力不足であることが客観的に認められ、企業経営や運営に現に支障が生じ、あるいは損害が生ずるおそれがあるような場合に限られるものと考えられます。
また、人事考課の評価が平均以下であるというだけでは、能力不足を理由に解雇することは難しいでしょう。人事考課は相対評価である以上、必ず平均以下の者が一定数生じることから、これらの者を直ちに能力不足として解雇することは不当であるためです。
更に、現在の部署での業務遂行能力に問題がある場合でも、適切な指導や教育をすることや、別の部署に配置転換することで、他の労働者と同等の能力を発揮できることも多くあります。
したがって、その様な措置をとらずに、いきなり解雇をすることは、解雇の相当性を欠くと言えます。
(2) 地位が特定された幹部職員、職種が特定された専門職の雇用
例えば、新規事業を早期に立ち上げるために、職務経験のある者を「事業部長」等の地位を特定してヘッドハンティングしたり、当該事業に精通したスペシャリストを職種・職務を特定して中途採用したような場合です。
このように、労働者が有する能力、経歴、経験に着目して、それに見合う地位・待遇で労働契約を締結した場合に、当該労働者が期待された能力を発揮できなければ、重大な債務不履行となります。よって、一般の新卒労働者以上に、解雇が認められやすくなります。
このような地位が特定された労働者の場合、能力不足を理由に解雇するに先立ち、使用者は配転等をせずとも解雇することが可能と言われています。
また、職種を特定して専門職として採用した者が、当該職種・職務を十分にこなし得ない場合は、同様に解雇することも可能です。
具体的事情によっては配置転換等も考える必要がありますが、一般の社員に比べれば配置転換等の義務ないし範囲は、狭く考えてよいといえるでしょう。
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