テナント物件の敷金保証金の回収
1.ご相談例
(相談内容)
私は個人事業主ですが、事業のために建物を借りていました。
入居時に、契約に従って保証金として200万円を賃貸人に支払っていたため、建物を退去する際に賃貸人にその返還を求めたところ、「保証金は敷金ではないので返還する義務は無い」といわれて返還されませんでした。
契約書には「保証金」としか書かれておらず、具体的な説明はありません。賃貸人の説明は正しいのでしょうか。
(回答)
保証金・敷金については、従来法令に定めがありませんでした。
しかし、平成29年5月26日に成立した「民法の一部を改正する法律案」では、民法622条の2を新設し、その第1項に、賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
1.賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
2.賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
とこれまでの判例に基づいて敷金に関する規制を定めました。
この規定は2020年4月1日から施行されますが、その内容は現在でも通用します。
上記の条文からも明らかなように、たとえ契約書上は「敷金」ではなく、「保証金」と記載されていても、「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」にあたると契約書の内容から判断されるのであれば、「敷金」と同じです。
したがって、「保証金は敷金ではないので返還する義務は無い」という賃貸人の説明は正しいのか、というご質問に対する回答は、「誤りであり、賃貸人は保証金を返還する義務がある」となります。
2.敷金・保証金の回収方法
上記のように、賃貸人が保証金の返還を拒否している場合、どのようにして回収すればよいのでしょうか。
1.再度交渉を行う
賃貸人はお客様に誤った説明をして返還を拒否していますが、この誤りが故意によるものなのか、誤解によるものなのかを明らかにする必要があります。
仮に、賃貸人が「保証金は敷金とは別物」と思い込んでいるだけでしたら、上記の改正民法の条文などを示して、誤解を解くことで解決する可能性があります。
もっとも、弁護士のような専門家による説明でなければ、賃貸人の誤解を解くことは難しいかもしれません。
また、賃貸人が故意に、つまりお客様をだますつもりで誤った説明した場合は、説得の余地はないので、任意に支払わない場合は訴訟を提起することを示しつつ、毅然と返還を求めることになります。この場合も弁護士を代理人とした方が、賃貸人に本気度が伝わります。
2.訴訟提起
再度交渉を行っても賃貸人が保証金の返還に応じない場合は、訴訟を提起します。
保証金(敷金)返還請求においては、賃借人が主張立証すべき事項の詳細については説明を割愛いたしますが、ご質問のケースで争点となるのは、「保証金」が敷金にあたるか否かであり、複雑な事実関係を立証したり、何人もの証人を尋問したりする必要はありません。
したがって、比較的時間を要せずに判決まで至ることが予想されます。
しかし、上記の争点は賃貸借契約の解釈という法律問題であることから、法律の専門家である弁護士を代理人として、裁判所が納得するような主張を展開できるようにすべきです。
3.強制執行
上記2の訴訟で保証金の返還を命じる判決を言い渡された場合、通常の賃貸人はそれに従うと思われます。
しかし、仮に賃貸人がこの期に及んでも保証金の返還に応じない場合は、強制執行を行うしかありません。
強制執行の詳細については別のページでご説明しておりますので、ここでは対象とすべき財産について触れたいと思います。
もし、お客様の賃料の振込み先が賃貸人本人の口座であったならば、その口座に対し、賃料の支払期日直後を狙って、預金債権の差押えを行うことによって、効率よく債権を回収することができます。
その他にも、仮に金融機関が抵当権を設定している不動産であっても、賃貸人にプレッシャーをかける目的で競売を申し立てることも考えられます。
【注意】
弊所では、債権回収業務について、事業性資金(事業により発生した債権(例:工事代金、売買代金、診療報酬などの売掛金や賃料・リース料など))の回収業務のみをお受けしております。個人間・親族間の貸付け等(親子間の貸付けや、個人的な貸付け)の債権回収は受け付けておりません。予めご了承ください。