ケース別債権回収(賃貸物件管理)
特有の問題
賃貸物件管理特有の問題点としては、入居者が立ち退かない限り、次の入居者を入れることができない、という点があります。
そのほか、預かっている敷金をどう使うか、という問題点もあります。
なお、一昔前までは、敷金は礼金のようなもので、一度受け取ったら返さなくてよいと考えるオーナーさんもいらっしゃったようです。
しかし、敷金は、担保として預かったものですので、返金することが大前提となりますので注意が必要です。
優良顧客対応に追われ、小口の取引管理(債権回収など)を後回しにしてしまうことが良くあるようです。
債権回収の方法
まずは、預かっている敷金を使って債権を回収する方法が考えられます。
関東であれば、通常、1か月から2か月分の家賃に相当する金額を敷金として預かっていることが多いようです(一般住宅の場合。関西地方はもう少し高額なことが多いようです。)。
この敷金から滞納家賃分を控除する(敷金返還請求権と賃料請求権を相殺する)ことで未払い賃料を回収することが考えられます。
未払い賃料の額が、敷金を上回った場合はどのように対応すべきでしょうか。
この場合は通常2か月以上の家賃の滞納があることが多いです。
したがって、賃貸借契約書に基づき、賃貸借契約を解除し、立ち退きを求めることになります。
任意に立ち退いてくれればそれに越したことはありませんが、任意の立ち退きに応じない場合には、次の入居者を入れるためにも、建物明渡しの裁判をしなければなりません。
このように、賃貸物件の場合には、未払い賃料、敷金、建物明渡しの3点をセットにして検討していく必要があります。
敷金にまつわる裁判例
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最高裁判所昭和48年2月2日判決
- 家屋賃貸借における敷金は、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり、敷金返還請求権は、賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体的に発生する。
- 家屋の賃貸借終了後明渡前にその所有権が他に移転された場合には、敷金に関する権利義務の関係は、旧所有者と新所有者との合意のみによつては、新所有者に承継されない。
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最高裁判所昭和49年9月2日判決
- 家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。