建物の使用貸借契約とは
建物の貸し借りの類型として、建物を無償で利用させる「使用貸借」という方法があることについては今までに述べた通りです。
この使用貸借については、「知り合いにタダで貸しているのだから、たいした問題にはならないだろう」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、実際には、建物の使用貸借は後にトラブルに発展する割合が高い事例でもあります。
1.使用貸借の特徴
建物の使用貸借をめぐる問題については、以下のような特徴があります。
・貸主と借主との間に特別な人間関係がある場合が大半を占める(親族関係や男女関係等)
・当事者が権利関係を明確に認識していない場合が多い(契約書等が存在しない事例も多い)
・背後にある人間関係のもつれが原因で建物明渡事件に発展するケースが多い
・上記理由により、解決に時間と労力を要する事案が少なくない
これらの特徴により、賃貸借の場合以上に当事者のみで解決が難しい状況に陥りやすいといえます。
2.使用貸借契約か賃貸借契約かの判断
借主と貸主の間に貸借があることはあらそいがないものの、当該貸借が賃貸借契約なのか使用貸借契約なのかが争われるケースもあります。
たとえば、借主が貸主に支払っている金額が建物の固定資産税額と同等であったり、兄弟間で親の面倒をみることを条件に建物を貸し借りしたりするようなケースがこれにあたります。
判例は、使用貸借と賃貸借の区別について、「異常に低廉や賃料」が定められた貸借関係を賃貸借契約と認定するためには、そのように認定するだけの「特別な事情」の存在を確定する必要がある、としています(大審院大正14年2月26日判決)。
賃料について
「異常に低廉な賃料」すなわち相場と比べて非常に安い賃料といえるかについては、「適正賃料の何分の1」といった明確な基準は示されていません。
固定資産税のみの負担の例について検討すると、一般に固定資産税は当該物件の適正な賃料に比べて相当に低額であると言えます。
また、貸借している不動産の固定資産税は「借用物の通常の必要費」(民法595条1項)にあたります。
そのため、貸主が借主から固定資産税相当額のみの支払いを受けたとしても、実際は経済的利益を得ることができないといえます。
よって、借主の負担が固定資産税のみの場合は、そもそもこれを「賃料」と評価できるのか、という疑問が生じます。
仮に「賃料」といえるとしても「異常に低廉な賃料」にあたると考えられます。
親の面倒を見る例についても、賃料が支払われているとは認められない場合が多いかと思われます。
法律上、親を扶養することは子の義務であるとされていることから、それによって兄弟間で対価が支払われていると評価することが難しいためです。
「特別の事情」について
どのような場合に「特別な事情」に当たるかについても、判例は明確に言及していません。
そのため、実際にはケースバイケースの判断となるでしょう。
実務における一つの見解としては、貸主と借主が「賃貸借契約の賃料として金銭を支払っている」と明確に認識していることや、貸主に低い賃料で建物を貸し出すだけの合理的な理由があること等が必要であるという考え方があります。
なお、契約書の表題が「賃貸借契約書」となっているからといって、必ず賃貸借契約であると認められるとは限りません。
一般論として、貸主と借主の双方が法律に詳しいのではない限り、「賃貸借」と「使用貸借」について明確に区別した上で契約を締結していると評価するのが難しいためです。
「特別な事情」については、事案ごとの事情に応じて実質的に判断されるものと考えた方が良いでしょう。
3.使用貸借の終了
使用貸借は以下の場合に終了します。
(1) 返還時期の定めがある場合
契約に定められた建物の返還時期が到来した場合には使用貸借は終了します(597条1項)。
(2) 返還時期の定めがない場合
契約時に定められた目的に従った使用収益が終了した時に契約は終了します。(597条2項本文)
または、借主が使用収益をするのに足りる期間(相当期間)が経過した時には、契約が終了します(597条2項但書)。
なお、目的が定められていない場合は、貸主はいつでも契約を終了して、建物の返還を求めることができます(597条3項)。
(3) 借主の死亡
借主が死亡した時は、使用貸借契約は終了します(599条)。
賃貸借ではなく使用貸借であるといえる場合でも、上記の法律要件にあたるかをめぐって争われる事例があります。
4.まとめ
このように、使用貸借の事案は後にトラブルとなることが多いことから、無償で建物の貸し借りを行う際には、慎重に検討することが必要です。
建物の使用貸借契約を検討されている方は、当初から権利関係を明らかにしておくことが重要です。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。