不動産明渡しの必要性
1.賃貸人の生活基盤の保全
賃貸物件からの収益は、それを主な収入源とする貸主(賃貸人)にとっては、生活基盤そのものであるともいえます。
家賃滞納等により賃料収入が途絶えてしまうことは、賃貸人にとっては死活問題となります。
家賃滞納がある事案では、賃貸人がすぐに法的な手続をとらずに放置していた結果、借主(賃借人)が家賃の滞納を続けたまま居座る形となり、結果として建物明渡請求訴訟(立退き訴訟)にまで発展してしまう例も少なくありません。
家賃を滞納するということは、経済的にかなり困窮していると推測されます。
このような状態に陥ってしまった賃借人は、次に住む場所のあてがないため(敷金・礼金・仲介手数料等の初期費用を自己負担できない)強制執行まで任意に出て行かないことも珍しいことではありません。
このような状態になってしまうと、話し合いでの解決は難しくなります。
もっとも、裁判を起こして判決を得た後、強制執行まで至った場合は、通常3ヶ月から6ヶ月程度の期間を要します。
また、執行業者の費用が20万円以上かかることも予想されます。
結果として、賃貸人の損失及び経済的負担は相当大きな金額となります。
賃貸人の被害を最小限にとどめるためには、速やかに法的手続を行い、建物の明渡しを求めることが不可欠になります。
他方、賃借人にとっても、「長期間にわたって家賃を滞納した結果、今後の生活の見通しが立たないまま強制退去せざるを得なくなった」という事態は決して好ましいものではありません。
解決の見込みがないまま不安定な状態を長引かせてしまうことは、かえって今後の生活再建の足かせとなってしまう可能性があります。
実際に、家賃を支払えないほど経済的に困窮してしまった賃借人の場合、債務整理などの法的対応や公的扶助等を必要としている場合が多く、早期に適切な支援を受けるべき状況にあります。
曖昧な状態を放置しないということは、賃貸人のみならず賃借人にとっても重要な問題であるといえるでしょう。
2.不動産の有効活用
建物の明渡しを適切に行うことにより、不動産の価値に見合う有効な活用を行うことができます。
特に都市及びその周辺部に古く存在する賃貸物件などは、現在より物価の安い時代に契約が締結されていたり、更に老朽化していて賃貸物件としての価値が低かったりすることから、相場よりも安い賃料が設定されている場合が多くあります。
そのため、近隣の新しい賃貸物件と比較した場合、不動産の価値に見合う有効な利用がなされているとは言いがたい状況にあります。
更に、このような賃貸物件は、開発に伴う地価の上昇などに伴い、その収入に比べて固定資産税、都市計画税、相続税等の租税公課の負担が大きくなり、所有者にとって過大な負担となっている場合も多くみられます。
このような状況下においては、所有者は、不動産の有効活用、その前提として既存の賃貸物件の明渡しを行っていく必要性に迫られているといえます。
明渡しにより、価値のある不動産を有効活用して収益性を向上させることができます。また、明渡し後の跡地を処分したり、買換えを行ったりすることによって、将来相続人が負担することになる相続税を大幅に軽減することも可能となります。
また、賃貸借契約を終了させて建物の明渡しを行うことにより、賃貸物件の所有者が、古い物件を今後も管理していくという経済的・精神的負担から解放されるというメリットもあります。
法律上、貸主は賃貸物件を適切に管理・修繕する義務を負っています(民法606条)。
そのため、賃貸借契約が続く限り、老朽化して様々な箇所に不具合が生じた建物についても、賃貸物件として問題なく利用できるようメンテナンスしていく必要が生じます。
また、法律上、賃貸借契約は、賃貸人が亡くなった場合、その地位が相続人に引き継がれるということになっています。
所有者が代替わりしたにもかかわらず、先代からの賃貸借契約が続いているという状態は、後に相続人にとって大きな負担となる可能性があります。
一般的に、建物明渡しの問題は、契約期間が長くなるほど利害関係が複雑化して解決が困難となります。
そのため、土地建物をめぐる法律関係については早期に解決を図ることが重要です。
もっとも、契約関係が長いほど、当事者間の人的関係も深まっている場合が多く、賃借人に明渡しを求めることをためらってしまう例も少なからずあると思われます。
このような場合、双方の意向に配慮しつつ円滑な明渡し交渉を行うことができるよう、まずは弁護士に相談していただくことをお勧めします。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。