介護事故6(事業者側による虐待)
1.職員による高齢者虐待への対応
施設職員が高齢者虐待を行っていることが内部告発によって発覚した場合、高齢者福祉サービス事業者としてとるべき対応としては、大きく分けて、
- 行政への対応
- 利用者及びその家族への対応
- 虐待を行った者を含む職員への対応
- 再発防止の取組みの対応
以下、それぞれの項目について詳しくご説明いたします。
2.行政及び利用者とその家族への対応
行政への対応
虐待は他者から見えないところで行われる傾向をもっており、管理者が知らないところで起こり得ます。また、虐待をしている職員に、自分が虐待をしているという自覚がないまま行われていることがあるため、施設自らが事実確認の調査を行うことは簡単ではありません。虐待が疑われた場合には市町村に通報することが大切です。(高齢者虐待防止法第7条第2項)
市町村は、養介護施設から通報、通告を受けた場合、事実確認を行い高齢者虐待の防止と当該高齢者の保護を図るための権限を行使します。その際、養介護施設は行政からの調査に協力するよう努めなければなりません。
利用者への対応
まず、利用者の安全確保に努めるとともに、事実確認を行います。 身体的虐待にあっては、利用者の安全確認や治療の必要性の有無について確認を行い、治療が必要な場合は、速やかに適切な治療が受けられるよう手配します。体の傷など目で確認できるものは、利用者等の同意を得て写真を撮るなどして保存します。
心理的虐待にあっては、利用者の心が傷ついていることが予測されるため、利用者の話をじっくり受け止め、不安を取り除くことが大切です。
家族への対応
事実確認後、速やかに虐待の経過についてご家族に連絡するとともに謝罪します。その上で、原因究明と再発防止についても説明するべきであると考えられます。
ご家族に早期に面接できない状況であれば、まず電話で連絡をし、その後お会いするという方法が望まれます。
また、損害賠償が必要な場合は、誠実に対応することが重要です。もっとも、不当に高い損害賠償を請求された場合は、弁護士に相談の上、訴訟も視野に入れて交渉すべきです。
3.職員への対応
虐待を行った者への対応
施設長等は、虐待が疑われる職員に事実確認をします。
その際には、虐待の実態や虐待と思われるケアが行われた背景、人員の配置状況等を確認します。職員が虐待と意識していない場合や、介護ストレスから精神的に追い込まれていることも考えられるので、初めから虐待と決めるつけることなく、慎重に確認する必要があります。
他の職員への対応
虐待を行った職員への事実確認と並行して、他の職員にも事実確認を行います。
また、虐待を行った職員だけの問題と決め付けるのではなく、職員全体・施設全体の問題として捉えて対応することが望まれます。そのため、虐待の事実を職員間で共有することが大切です。
さらに、事実確認の結果、関係者(虐待を行った職員、上司及び施設長等)に対して処分を行う場合は、就業規則等に基づいて適正に行う必要があります。
相談者の保護
高齢者虐待防止法では、高齢者虐待の通報等を行った従業者等は、通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けないと規定されています(21条7項)。
また、公益通報者保護法でも、労働者が、事業所内部で法令違反行為が生じ、又はまさに生じようとしている場合に、不正の目的で行われた通報でないこと、通報内容が真実であると信じる相当の理由があること、の2つの要件を満たして市町村等に対して公益通報を行った場合の通報者に対する保護が規定されています(同法3条、5条)。
管理者は、職員に対して、このような通報等を理由とする不利益な取扱いの禁止措置や保護規定の存在を周知することによって、職員がためらわずに通報等を行える環境を整えることが必要です。
4.再発防止への取組み
虐待の発生を特異な事例とするのではなく、それまでの施設運営における反省点の確認と今後の改善への契機とすることが必要です。
そのためには情報を共有し、管理職レベルでのみ処理するのではなく、施設管理者と、施設職員(事業所)が一体となった取組みが必要です。
虐待事例、発生原因の調査分析
施設職員による虐待の発生要因としては、職員の人権意識の欠如、施設の管理不行き届き、職員の認識不足、高齢者の言動や暴力及び身体の状況等が挙げられます。高齢者虐待防止に取り組むためには、虐待の特徴や発生した要因、あるいはそれらの背景について分析し理解することが必要です。その上で、施設において具体的にどのような取組みができるか検討し、その対応を図っていくことが必要です。
苦情受付、処理体制の見直しと組織としての体制の明確化
養介護施設では、苦情相談窓口を開設するなど、苦情処理のために必要な措置を講ずべきことが運営基準等に規定されているとともに、高齢者虐待防止法においては、養介護施設は、サービスを利用している高齢者やその家族からの苦情を処理する体制を整備のための措置を講ずるものとすると定められています(同法20条)。
苦情の受付やその処理体制については、組織の目的とその役割をはっきりと認識し、処理体制が適正に機能しているかを点検し、見直すとともに、誰もがわかるように明示することが大切です。
職場内研修の徹底
ケアの質を高めるためには、必要な知識や技術を学ぶ機会の提供が必須です。施設理念や指針を示しスタッフ間で共有し、特に認知症介護についての研修会や研究会を開催します。
働きやすい職場環境の実現
個々の職員の状況を把握し、勤務体制を見直します。また、職員が相談しやすいよう管理者やリーダーは個々のスタッフに日常的に声かけをします。