過払い金の相続
亡くなった家族の過払い金は相続人が請求できます
亡くなった人(被相続人)の権利義務は、相続人に引き継がれます。被相続人に借り入れがあり、それが過払いとなっていた場合には、相続人がその返還を請求できる場合があります。
ただし、相続放棄をしていた場合には、その方は過払い金の返還を請求できません。相続放棄は、被相続人の方のプラスの財産もマイナスの財産(借金)もまとめて引き継がないことにする手続きです。相続放棄をした後に、やっぱり過払い金返還請求権だけを相続するということはできません。
また、過払い金返還請求権をお持ちの方が亡くなって相続が発生しても、過払い金返還請求権の消滅時効の進行には影響がありません。したがって、最後の取引から10年間が経過してしまっている場合には、過払い金返還請求権は消滅時効のため請求することができません。
他の相続人と一緒に請求をしなければなりませんか?
相続人が2人以上いる場合は、過払い金返還請求権はなどの金銭債権は、相続分にしたがって自動的に分割されるとされています(つまり、遺産分割の対象とならないと考えられています)。
したがって、それぞれの相続人は、過払い金のうち、自分の相続分の割合に応じた部分を単独で請求することができます(もちろん、他の相続人と足並みをそろえて請求することも自由です)。
特定の相続人に過払い金返還請求権を一本化させるには、他の相続人に相続放棄をしてもらうか、他の相続人から過払い金返還請求権を譲渡してもらう必要があります。
また、取引履歴の開示請求は、それぞれの相続人が単独でおこなうことができます。
以上まとめると、亡くなった方の持っていた過払い金を調査することは相続人がそれぞれ行うことができます。そして、過払い金の返還を請求する方法には、次の3つの方法があります。
- 相続人がそれぞれ別々に請求する方法この場合、請求できる金額は、自分の相続分の割合にしたがった金額にとどまります
- 全ての相続人が一緒に請求をする方法(①の請求を同時にする方法)
- 特定の相続人が他の相続人から債権譲渡を受け、請求をする方法
他の相続人の協力が得られない場合は、①の方法による以外ありません。ただし、他の財産の遺産分割も含めた問題の一回的解決という点からすると、②や③の方法による方がよいともいえます。
消滅時効との関係
過払い金返還請求権の消滅時効は、最後の取引から10年間です。最後の取引から10年間が経過してしまうと過払い金を返還してもらうことができなくなってしまいます。
これを防ぐためには、裁判の提起など、時効を中断(消滅時効のカウントのリセット)させるための手続きをおこなう必要があります。
相続人が2人以上いる場合には、上記でもご説明したとおり、相続分にしたがって過払い金返還請求権が分割されますので、過払い金の全体について消滅時効の完成を防ぐためには相続人全員で消滅時効の中断手続きをおこなうか、債権譲渡などにより過払い金返還請求権を一本化する必要があります(自分の相続分の過払い金返還請求権については、単独で消滅時効の中断手続きをおこなうことができます)。
相続放棄との関係
過払い金返還請求をする前に、亡くなった方の他の借金についてよく調査する必要があります。
相続放棄は、亡くなった方の財産のすべてを放棄する手続きです。借金は引き継がないが過払い金は引き継ぐといったことはできません。
相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合は、法定単純承認といって、相続放棄ができなくなってしまうことがあります(民法921条1号)。よく調査をせずに過払い金を手に入れ費消してしまうと、相続放棄ができず、他の借金も引き継がなくてはならなくなってしまう可能性があります。
逆に、相続放棄には3か月という期間制限があるからといって、あわてて相続放棄をしてしまうと、後になって過払い金があったことが判明したとしても過払い金を返してもらうことはできません。
相続放棄等をするか、それとも亡くなった方の財産をそのまま引き継ぐ(単純承認)かどうかを決めるための3か月の期間は、家庭裁判所に延長してもらうことができる場合があります。3か月以内に調査が終わらない場合には、家庭裁判所に対して熟慮期間の伸長の申述をしましょう。