過払い金返還請求権の消滅時効とは何ですか?
過払い金返還請求権は10年で消滅する
消滅時効とは?
法律上、所有権以外の権利には、一定期間権利を行使しなかった場合には消滅するものとされています。この制度のことを「消滅時効」といいます。つまり、「消滅時効」とは、権利を持っている人が権利を行使するための制限期間のことです。
では、どのくらいの期間が経過すると、消滅時効となって権利を行使することができなくなってしまうのでしょうか?
消滅時効の期間は、対象となる権利の種類に応じて、様々な法律によって決められています。債権(相手方に特定の行為を請求する権利。金銭の支払請求権など。)は、通常、権利を行使できるときから10年間経過すると、消滅時効により消滅するとされています(民法167条1項)が、これよりも短期の消滅時効期間を設定している権利も多く存在します。
たとえば、飲食店での代金は、1年間の消滅時効にかかるとされています(民法174条4号)。
後ほど詳しく解説いたしますが、最高裁判所は、過払い金返還請求権は、一般の債権と同じ「10年間」の消滅時効にかかると判断しています。
過払い金の消滅時効に関する最高裁判決
過払金返還請求権は、通常の債権と同様に10年間の消滅時効にかかるとされています。
10年間で消滅時効になるといっても、いったいどの時点から10年間のカウントを始めるのかが問題となります。
最高裁判所は、平成21年1月22日判決で、基本契約が存在する場合の過払金返還請求権の消滅時効は、基本契約に基づく新たな借入れ金の発生が見込まれなくなった時―取引が終了した時点から進行すると判断しました。
この「取引が終了した時点」の意味について、取引の終了時点とは基本契約の終了時であるという見解もありますが、裁判例の多くは、最後の支払いや貸付けの時点を指すとしています。
「基本契約」とは、今後、継続的に何度もお金の貸し借りをすることを前提として借主と貸主が締結する、基本的な契約のことをいいます。契約書では、「金銭消費貸借基本契約書」などと書かれることがあります。
この基本契約がある場合には、利息制限法の上限を超える利息の支払いにより過払金が発生した場合に、その時、他の借入金があれば、過払金をもって他の借入金を支払ったことにすると双方約束しているのが通常であろうと考えられています(そうでなければ、貸し借りを繰り返すたびに過払金返還請求権と借入金返済債務が数多く発生してしまいます)。このような当事者双方の(暗黙の)約束のことを「過払金充当合意」といいます。
最高裁判所は、基本契約に基づいてお金の借入れや返済が継続的に繰り返されている場合には、過払金充当合意があるために基本契約の途中で借主が過払金返還請求権を行使することができないため、その障害がなくなった取引終了時を消滅時効のスタート地点と判断しています。
貸出停止処理と消滅時効
貸金業者は、借主の信用状態の悪化、退職、滞納などの事情から、借主に対して貸出停止処理をおこなうことがあります。
このような処理が行われた場合、上記最高裁判所平成21年1月22日判決の内容から、貸出停止処理時で新たな借入金の発生が見込めない状態となったのだから、この時点から消滅時効をスタートさせるべきだ、という反論が貸金業者から出されることがあります。
多くの裁判例では、貸出停止処理の原因となる貸出停止事由が解消されれば、また貸付けが再開されることはありうるのだから、貸出停止処理をした時点を持って取引終了と考えることはできず、過払金返還請求権の消滅時効は、取引終了時(最後の借入れや支払いの時)から進行する旨判断されています。
消滅時効の主張が信義則違反とされた裁判例
特殊なケースに対する判決ですが、消滅時効の完成が迫っていたケースで、消滅時効の完成する日の3か月余り前から取引履歴の開示請求をしていたが、取引履歴が消滅時効期間の経過後に開示されたというケースについて、貸金業者が消滅時効を援用(消滅時効を利用すること)は信義則上許されないと判断したものがあります(八王子簡易裁判所(東京)平20年4月24日判決)。
特殊なケースでの判断になりますので、最後の支払い等から10年間を過ぎてしまったケースのすべてでこの判決を利用して過払金返還請求ができるとは限りません。
しかし、その他特殊な事情がある場合などには、取引の終了時点から10年以上が経過していても、貸金業者の消滅時効の主張が信義則違反または権利の濫用にあたり許されないと判断されたケースもないわけではありません。
過払金の返還手続きはお早めに
以上のとおり、過払金は、取引終了から10年間が経過してしまうと消滅時効により消滅してしまいます。
また、この10年間の期間がまだ先であるという場合でも、過払い金の請求は、できるだけお早めになさることをおすすめいたします。
過払い金返還請求による支払いがかさんだ影響などから、大手貸金業者の武富士は、経営が破たんし、会社更生法にもとづく更生手続きの開始申立てをしました。
武富士に対する過払金は、会社更生の手続きによってのみ返還されることとなりますが、本来支払ってもらうべき過払金のほとんどが返還してもらえないこととなりました。
その他の貸金業者にも同様に、経営破たんのリスクがあります。貸金業者が経営破たんをしてしまうと、過払金は返還されないこととなりますので、過払い金の返還請求は、少しでも早く始めるべきといえるでしょう。
ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。