債権回収と契約書の書き方
1.契約書の重要性
債権回収は、企業にとって悩ましい問題です。
いつ何時、取引先の経営状態が悪くなるかはわかりませんし、それが何の情報もない新規の取引相手の場合であればなおさらです。
回収に対する不安を解消するため、万が一を考えて対策を備えておくことは大事です。
そこで役に立つのが「契約書」です。
適切な契約書を用意しておくことで、債権回収を自社に有利に進めていくことができます。
万が一のときに、代金回収をスムーズに行ったり、回収額を増やしたりするためには、契約書などにより契約内容を書面に残しておくことが大事です。書面がなければ仮差押えなどの裁判手続が利用できない可能性もあります。
契約書があることで、取引内容が明確になり、水掛け論になることを防ぎ、紛争の防止に役立ちますが、それだけでは不十分な場合もあります。
売掛金を回収するためには、売掛金回収時に優位に立てる規定を盛り込んでおく必要があります。それがない契約書は、債務者に逃げ道を与えてしまうことにもなりかねません。
もし、現在の契約書に、以下で解説するような条項がなければ、それを盛り込んだ契約書を作成しなおすこともお考えください。
2.盛り込むべき条項(1)期限の利益喪失
まず「期限の利益喪失」の条項です。
「期限の利益喪失」とは、「〇月×日までは支払わなくてよい」という、債務者の利益を喪失させてしまうことです。
100万円を借りた場合、通常は、「毎月10万円を10回の10か月に分割して支払う」といった契約を結びます。このように、返済の満了を10か月待ってもらうという「利益」を、「期限の利益」といいます。
ですが、借り手はいつまでも期限の利益を保持できるわけではありません。先ほどの契約に「1回でも支払を怠った場合、残額を一括して支払う」という条項が入っていれば、契約どおりに毎月返済しなければ、「期限の利益」を喪失してしまうということです。
この条項によって、債務者は契約どおり支払うことに対するインセンティブが働きますし、債権者は契約を守らない債務者に対して、残債務の一括請求が可能となります。
では、期限の利益喪失条項を盛り込む際の2つの重要なポイントを見ていきます。
なお、契約書の表記に則って貸主を「甲」、借主を「乙」とします。
ポイント1「乙は甲からの催告なしに当然に」
この条項を入れることで、債務者が期限の利益を失えば、すぐに回収体制に入ることができます。
反対に、期限の利益の喪失の条件として「甲からの催告をもって」とする場合もありますが、催告のための時間と手間がかかります。
時間がかかれば、債務者による財産処分などの理由により、回収不能のリスクは高まります。
そこで、この条項を入れておくのです。
ポイント2・「乙の信用力及び資力が悪化したと『甲が認めるとき』」
もし、「甲が認めるとき」という一文がなければ、乙の信用力及び資力が悪化したかどうかの判断を、第三者がしなければならなくなります。
しかし、「甲が認めるとき」としておけば、債権者の主観的判断で回収に入れます。
3.盛り込むべき条項(2)契約解除
次に「契約解除」条項です。
民法では、債務不履行、つまり、相手方が、契約で定められた条項に違反したときは、契約を解除できるとされています。
契約解除条項が必要な理由は、民法の原則に従えば、仮に相手方の信用力に不安が生じたときでも、相手に債務不履行がない限り、契約を続けなくてはいけないからです。
今後、代金を支払ってくれるかどうかわからない相手と取引を続けなければならないということは、回収不能となるおそれのある債権が増え続けるということです。
したがって、契約解除条項を入れて、もしものときは、すぐに契約を解除して、取引を終わらせるとともに、債権の回収に入れるようにしておく必要があります。
契約解除条項の重要ポイントは1つです。
ポイント「甲は何らの通知催告を要せず」
期限の利益喪失条項と同様に、催告を行ってからでは、手間と時間がかかりますし、内容証明郵便で送らなければ、「催告を受けていない」という言い訳が通ってしまう可能性があります。
さらに、内容証明郵便で送ったとしても、相手方が受け取りを拒否した場合は、有効な催告と認められない可能性があります。
この一文でそれらのリスクを回避し、確実に契約を解除することができます。
【注意】
弊所では、債権回収業務について、事業性資金(事業により発生した債権(例:工事代金、売買代金、診療報酬などの売掛金や賃料・リース料など))の回収業務のみをお受けしております。個人間・親族間の貸付け等(親子間の貸付けや、個人的な貸付け)の債権回収は受け付けておりません。予めご了承ください。