飲食店特有の問題
1.暴力団からの不当要求
飲食業を営んでいると、暴力団員から、いわゆるみかじめ料の請求や、暴力団が関係する業者から割り箸やおしぼりを購入するよう強要されるなど、暴力団の威力を利用した不当な要求行為を受けることがあります。
このような暴力団員による不当な要求行為は、市民生活や企業活動の安全や平穏を害するものです。そのため、暴力団からの不当な要求行為を規制するため、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)が制定、施行されています。
そして、暴力団を社会から排除するためには、暴力団員の規制に加え、市民や企業が暴力団との関係を遮断することが重要です。
そこで、政府は、平成19年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表し、企業に対して暴力団を始めとする反社会的勢力との関係を遮断することを求めるとともに、そのための基本原則や対応を明らかにしています。
また、現在では、全国47都道府県が暴力団排除条例(都道府県によって名称は多少異なります)を制定、施行しており、地方自治体レベルでも社会から暴力団を排除するための取組みが進んでいます。
2.不当要求への対応法
暴力団員からの不当要求に対する対応は以下のとおりです。
要求には絶対に応じない
店舗の経営者としては、暴力団員からの要求を断れば何をされるか分からないという恐怖から、やむを得ず要求に応じることで穏便に済ませたいという思いもあるかもしれません。
しかし、店舗がこのような暴力団員の要求に応じることは、暴力団員の活動を助長し、要求が通じる相手とみなされ、さらに暴力団員からの要求行為がエスカレートする可能性もあります。
また、多くの都道府県の暴力団排除条例では、事業者に対して暴力団の活動を助長する利益の供与を禁止し、違反した場合には、その事業者に対して違反行為の防止措置を勧告することができ、正当な理由なく勧告に応じない場合には、その旨の公表ができるとしています。
事業者名を公表された場合、社会的信用を失い、暴力団員と付き合いがある飲食店としてお客様が寄り付かなくなる可能性があります。暴力団員の要求に決して応じてはいけません。
中止命令・再発防止命令
暴力団員が、暴力団の威力を示して、寄付金やみかじめ料等を要求することは、暴対法の禁止する不当金品要求行為(同法9条2号)、ないしみかじめ料の要求行為(同法9条4号)に当たります。
そこで、公安委員会は暴力団員に対して中止命令を出すことができ(同法11条1項)、反復して行うおそれがあるときは再発防止命令を出すことができます(同法11条2項)。
また、暴力団員がこれらの命令に反したときには、3年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその双方の刑罰が科されます(同法46条)。
したがって、暴力団から不当な要求があった場合には、店舗は所轄の警察署に相談し、暴力団員からの暴力的要求行為について中止命令、再発防止命令を出してもらうことになります。
その際には、警察に暴力的要求行為の内容や態様がわかるように、暴力団員から受け取った名刺等の名前や住所が分かる資料や、暴力団員との会話時の録音や暴力団員から渡された書類等の資料を準備するとよいでしょう。
3.暴力団の宴会予約
経営している料理店に、暴力団から組長の襲名披露の宴会をするとの目的で宴会の予約が入ったとします。
このような宴会の予約に応じることは問題ないのでしょうか。
考え方にもよりますが、暴力団が行うといっても、宴会自体は暴力行為ではないので、宴会の予約に応じることに問題はないと捉えることもできるでしょう。
しかし、暴力団の宴会、しかも組長の襲名披露の宴会を行うことは、暴力団の活動を助長する行為です。
そして、上記のとおり、
多くの都道府県の暴力団排除条例では、事業者に対して暴力団の活動を助長する利益供与を禁止しています。
暴力団の組長の襲名披露の宴会は、単なる飲食物の提供ではなく、暴力団の活動を助長する行為ですので、店舗としては宴会の予約を断らなければなりません。
宴会の予約に応じた場合
店舗が、暴力団の組長の襲名披露の宴会と知らずに予約に応じた後に、暴力団の組長の襲名披露の目的の宴会と知った場合、店舗は予約を解約することができるでしょうか。
(1)前提として、予約に応じた段階では、店舗は暴力団の組長の襲名披露という宴会の目的を知らなかったので、予約に応じたこと自体は利益供与には当たりません。
しかし、予約に応じた後、宴会の前に暴力団組長の襲名披露の宴会であることが判明した以上、そのまま宴会を行うことは利益供与になりますので、店舗としては予約を解約する必要があります。