高齢者施設の人事労務6(職員の休職)
1.休職とは
休職とは、労働者が、労働契約を維持したまま長期間の労働義務が免除される又は禁止されることをいいます。休職は、法律上の制度ではなく、就業規則や労働協約の定めにより、事業者からの休職命令という一方的な意思表示によってなされるのが通常です。
例えば、従業員の個人的な理由による怪我など、何らかの理由により就業が不可能になった場合に適用され、いわゆる解雇猶予措置といえます。
休職の期間は会社によって異なります。そもそも法律上要求される制度ではない(公務員の場合は国家公務員法などで休職について規定されています)ので、どの程度の期間の休職を認めるかは会社が自由に決めることができます。一般的には半年から1年程度に設定する場合が多いですが、企業規模が大きくなるにつれ、長期間の休職を認める傾向があるようです。
休職期間中は、ノーワーク・ノーペイの原則により、賃金が支払われないのが一般的です。もっとも、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないとされています(労働基準法26条)。
近年では、パワハラや長時間労働によってうつ病のなどの精神障害を発症し、従業員が休職を申し出るケースが増加しています。「高齢者施設の人事労務5(メンタルケア)」のページでご説明したように、事業者が職場環境配慮義務に違反した結果、従業員が精神障害を発症した場合には休業となります。
他方、業務外の原因で発症した場合には、就業規則等に従い、休職することになります。
休職期間中に、従来どおり労働を提供できる状態に戻った場合には復職します。しかし、休職期間が満了しても復職できない場合には、休職期間満了による自然退職又は解雇となります。
事業者も、代替要員の確保や社会保険料の事業主分負担などがありますので、休職に対する期限を設ける必要があります。
2.従業員から休職の申出があった場合の対応
休職の手続
従業員が休職を申し出た場合には、休職期間を定めて対象従業員に対して休職命令を発令します。
その際、休職制度の内容、休職期間、休職中の所得保障制度、休職期間中の社会保険料・住民税について金額・支払方法、休職期間中の連絡方法、復職の際の手続、休職期間満了時の取扱いなどを説明しておく必要があります。この場合、書面あるいはメールなど、記録が残る方法で伝えた方が後日のトラブルを避けることができます。
傷病手当金
上記にある休職中の所得保障制度については、健康保険制度の中に「傷病手当金」という制度がありますので、これは従業員に説明すべきです。傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やけがのために労働できず、事業主から十分に報酬を受け取ることができない場合に支給されます。
ただし、国民健康保険制度に加入している従業員には適用がないので、誤った説明をしないよう注意が必要です。
傷病手当金の支給要件は以下の四つをすべて満たしていることです。
- 業務外の事由による病気やけがの療養のための休業であること
- 労務に服することができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
*連続する3日間を「待機期間」といい、待機期間中は支給されません。待機期間には、欠勤日はもちろん、公休日や有給休暇取得日も含まれます。 - 休業した期間について給与の支払がないこと
*休職期間中に給与の支払があっても、その給与額が傷病手当金の額より少ない場合には、差額が支給されます。
傷病手当金の支給額は、1日につき被保険者の標準報酬日額(準報酬月額の30分の1に相当する額)の3分の2に相当する額が支給されます。
また、傷病手当金が支給される期間については、支給が開始した日から最長1年6か月となっています。仮に、1年6か月の間に仕事に復帰した期間があり、その後再び同じ病気やけがにより仕事に就けなくなった場合でも、復帰していた期間も1年6か月の中に通算し計算されます。
3.休職期間が満了した際の対応
復職できない場合
休職期間が満了しても、病気などが治らず復職できない場合には、当該従業員を退職させることが一般的です。退職させる場合には、就業規則等に「休職期間が満了してもなお就業が困難な場合には、休職期間の満了をもって退職する」といった、退職に関する規定を設けておく必要があります。
また、復職ができる状態かの否かについて、事業主が一方的に決めることはトラブルの原因になります。当該従業員の主治医に意見を求めたり、事業主が指定する医師の診察を受けてもらったりして、医学的見地からの慎重な判断が必要です。
復職可能な場合
復職できる状態に戻った場合も、休職前と同じ仕事ができる状態でない場合には、職種変更や労働時間の短縮なども検討せざるを得ません。
その場合には、職種あるいは労働時間短縮に応じた労働条件に変更する場合があります。また、リハビリ期間として数か月間の期間を定めた有期労働契約への変更や給与体系を時間給にするなどの変更も検討に値します。
ただし、労働条件の変更には、従業員の同意が必要となりますので注意してください。その際、従業員の生活などには十分配慮しつつ、代替要員確保の必要性などの事業者の事情も説明し納得を得るようにしてください。
また、完全に労務が提供できない場合には、退職勧奨を行うのも一つの手です。雇用契約上、事業者は労務提供の対価として賃金支払義務が生じています。従業員から十分な労務の提供を受けられない以上、雇用契約の不履行となり、解除事由となりえます。