公正証書とは
公正証書とは、公証人という法律の専門家が、公証人法や民法などの法律にしたがって作成する公文書です。専門家が作成する公文書ということで高い証明力があるほか、金銭の支払いを内容とする契約について公正証書を作成すると、債権者は債務者に対してすぐに強制執行をすることができる場合があります。
公正証書には、遺言公正証書、任意後見契約公正証書、金銭の貸借に関する契約や土地・建物などの賃貸借に関する公正証書、離婚に伴う慰謝料・養育費の支払に関する公正証書ならびに事実実験に関する公正証書などの種類があります。
公正証書のうち、一定額のお金を支払う請求について債務者が直ちに強制執行に服する旨の文言(強制執行受諾文言)が記載されているものを「執行証書」といいます。
執行証書がない場合には、債務者がお金を払わないときであっても、債権者は一度裁判を起こして、裁判所の判決等を取得し、この判決書などを使って強制執行をしなければなりません。
執行証書が作成され債務者に送達されていると、債権者は、裁判等の手続きを踏むことなく、すぐに強制執行の手続きをすることができます。
公正証書の濫用
上記のとおり、公正証書は、とても強力な法律上の効果を持つ文書です。しかし、公証人には事実調査の権限がないため、公正証書を代理人が作成する場合に本人の意思確認は簡単に済ませられていました。
そのため、かつて、商工ローン等の業者は、契約時に借主等によく説明をしないで公正証書作成嘱託委任状と言う書面にサインと押印をさせ、この委任状と印鑑証明書を使って従業員を借主の代理人として公証役場へ行かせ、公正証書を作成し、給与等の差し押さえをするという行為が社会問題となったことがありました。
悪質な場合には、貸付金額や保証金額の欄が白紙の委任状にサインと押印をさせ、実際の貸付け内容と異なる内容の公正証書を作成してしまうということがされました。
以上の問題があったことを踏まえ、現在では、平成19年12月19日に施行された改正貸金業法により、公正証書の作成について下記のとおり制限が設けられています。
貸金業者の公正証書の作成に対する規制
平成19年12月19日に施行された改正貸金業法20条は、貸金業者が貸金債権に関して公正証書を作成する場合の手続きについてルールを定めています。
まず、貸金業者は、借主から公正証書を作成するための委任状を取得することを禁止しています。
これは、かつて、貸金業者が借主から白紙の委任状を取得し、借主の意思に反して、委任状を使って従業員を代理人として公正証書を作成するということが行われていたためです。現在では、このような公正証書を濫用していた商工ローンが破たんしたため、公正証書が濫用されるケースは少なくなってきています。
次に、委任状を利用せずに借主自身が公正証書の作成手続きを行う場合でも、貸金業者には、借主に対し、強制執行受諾文言のある公正証書を作成することの意味などを書面で説明する義務があります。
また、利息制限法の制限を超える利率の貸付けについては公正証書の作成自体が禁止されています。
貸金業者が公正証書や委任状を持っているときは
貸金業者が借主の白紙委任状を持っている場合には、受任通知を送る段階で、委任を撤回する旨を通告します。
ただし、現在では、上記のとおり、改正貸金業法によって貸金業者が委任状をもって公正証書を作成することができなくなりました。そのため、この通知を発送することの重要性はなくなっています。
すでに公正証書が作成されている場合
すでに公正証書が作成されている場合には、相手方業者にその公正証書を利用した強制執行をさせないように対応します。
具体的には、公正証書による差押えが違法であることを内容とする警告文を送ったり、公証人に対して執行文を付与しないよう通知したりすることがあります。
公正証書の作成手続きに不当な点がある場合や、過払い金が生じているなどそもそも借主に債務がない場合などには、地方裁判所に対して請求異議の訴えと執行停止の申立てをすることによって、強制執行の停止をさせることができる場合があります。