小規模個人再生と給与所得者等再生の違い
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きがあります。
どちらも、裁判所に個人再生の申立書を提出し、裁判所が個人再生手続開始決定をすることにより手続きが始まり、申立人(再生債務者)の財産状況や借金の総額を調査・確認する手続きを経た後、申立人(再生債務者)が借金の減額と残額の返済スケジュールを再生計画案としてまとめ、これを裁判所に認可してもらい、計画にしたがって3~5年間の分割払いをしていく、といった大まかな手続きの流れは同じです。
また、「住宅資金特別条項」という制度を用いることによってマイホームを手放さずに借金の整理をすることができる場合があるという点も、2つの手続きに共通です。
2つの手続きの違いは、申立てをできる方の範囲と、再生計画案が認められるために必要な条件にあります。この違いにともない、申立てに必要とされる書類も若干違ってきます。
どちらの条件も満たしている場合は、好きな方を選んで手続きを申し立てることができますが、下記でくわしく解説するとおり、一般的には小規模個人再生の手続きを選択する方が多いです。
申立ての条件
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合、下記の条件を満たす人が、手続きの対象とされています(民事再生法221条1項)
- 自然人であること(=法人ではなく個人であること)
- 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権(=住宅ローンその他担保権の付いた借金を除く借金)の総額が5000万円を超えないこと
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合、小規模個人再生の条件に加えて、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者」であって、かつ、「その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことが条件となります。
すなわち、給与所得者等再生の場合、下記の条件を満たす人が手続きの対象とされています。
- 自然人であること(=法人ではなく個人であること)
- 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権(=住宅ローンその他担保権の付いた借金を除く借金)の総額が5000万円を超えないこと
- 給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 上記収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること
収入額の変動の幅が小さいとは、年収の変動が5分の1未満であることが目安とされています(民事再生法241条2項7号イ)。
ポイントは、給与所得者等再生の手続きを利用できる条件を満たしている方は、小規模個人再生の手続き利用の条件も満たすことになります。
再生計画案認可の条件
債権者による書面決議
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合、申立人(再生債務者)が裁判所へ再生計画案を提出した後、債権者(貸主等)の決議を得なければならないとされています。
この決議は、通常の民事再生手続き(会社等の民事再生の場合)と異なり、債権者集会を開いて決議をすることまでは必要ありません。再生計画案とともに議決書が各債権者に送られ、債権者が議決書を提出する形で決議が行われます。
裁判所の定めた期間内に、「再生計画案に同意しない」と返答した債権者の数がすべての債権者の数の半数に満たず、さらに「再生計画案に同意しない」と返答した債権者の持つ債権額が債権総額の2分の1を超えない場合は、再生計画案が可決したものと扱われます(民事再生法230条6項)。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合、再生計画案に対する債権者の書面決議はおこなわれません。再生計画案の内容または要旨が債権者に通知され、意見がある者は書面を提出するよう通知がされます(民事再生法240条)。しかし、多数の債権者が再生計画案に同意しないという意見を述べたとしても、裁判所は、他の条件が満たされていると認められる場合には再生計画認可決定をします。
このように、小規模個人再生よりも再生計画の認可に必要な条件がゆるやかになっています。
最低弁済額
小規模個人再生の場合も、給与所得者等再生の場合も、再生計画案に記載された返済総額が「最低弁済額」を下回っている場合には、再生計画が認可されません(民事再生法231条2項3号4号、241条2項)。
また、再生計画案の実現が見込めない場合も同様です(民事再生法231条1項、174条2項4号)。
この「最低弁済額」の金額が、小規模個人再生と給与所得者等再生では異なってくることがあります。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合、再生計画案における返済総額は、下記の金額を上回る金額でなければなりません(民事再生法231条2項3号4号)。
負債総額100万円未満 | 全額 |
---|---|
負債総額100万円以上~500万円未満 | 100万円 |
負債総額500万円~1500万円未満 | 負債総額の5分の1 |
負債総額1500万円以上~3000万円 | 300万円 |
負債総額3000万円以上から5000万円未満 | 負債総額の10分の1 |
さらに、個人再生ではなく破産をした場合に債権者に配当されると見込まれる金額(清算価値)が上記金額を上回る場合には、清算価値以上の支払いが必要になります(清算価値保障原則)。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合、上記の小規模個人再生で要求されている条件に加え、可処分所得の2年分以上の返済をしなければならないとされています(民事再生法241条2項7号、可処分所得要件)。
可処分所得は、手取りの平均年収から最低生活費をマイナスした金額のことをいいます。最低生活費は、「民事再生法第241条第3項の額を定める政令」という政令によって計算方法が決められており、生活保護基準が参考とされています。
特に家族と同居していない1人暮らしの方の場合は、最低生活費の金額が低く計算されやすいため、可処分所得の金額が高くなってしまうことがあります。
そうすると、小規模個人再生の場合よりも将来の返済金額が高額となってしまう場合があります。
給与所得者等再生のメリットとデメリット
以上まとめると、小規模個人再生ではなく給与所得者等再生を選択した場合には、債権者が反対しても手続きを進めることができるというメリットがある一方、将来返済しなければならない金額が高くなってしまう(ことが多い)というデメリットがあります。
もっとも、多数の債権者が再生計画案に反対するというケースはあまり多くありません。そのため、メリットに比べて返済金額が高くなるというデメリットが大きい場合が多いです。
したがって、小規模個人再生の手続きが選択されることが多いです。