個人事業主・会社経営者の破産における注意点
個人事業主や会社経営者の方が破産する場合、サラリーマンなどの給与所得者が自己破産をする場合にはない注意点があります。
このページでは、個人事業主の方が自己破産をする場合にご注意いただきたい事項について説明いたします。
個人事業主の場合は原則として管財事件となる
個人事業主の方の自己破産と給与所得者等の方の自己破産とでまず大きく異なるのが、個人事業主破産の場合には、原則として同時廃止が認められず、管財事件となるということです。
同時廃止とは、破産管財人を選任して財産の調査や処分に当たらせるほどの必要がない場合に、裁判所が破産手続開始決定と同時に破産手続きを終わらせる(廃止する)決定をするという手続きをいいます。
これに対し、管財事件とは、裁判所が破産管財人を選任して、破産申立人の財産の調査等をさせる場合のことをいいます。調査の結果、債権者に分配できる財産がないこと等が判明した場合には、破産手続きをそこで終了(廃止)することになります。このことを「異時廃止」ともいいます。法律上は、破産管財人の選任される管財事件の方が基本類型とされています。
裁判所で管財事件と振り分けられると、まず裁判所に納める予納金の金額が同時廃止の場合よりも高額になります。予納金の大部分は破産管財人が業務をおこなうための資金として使われます。同時廃止の場合、破産管財人が選任されないので破産管財人にかかる費用が必要ないのですが、管財事件ではこの費用をあらかじめ納付する必要があるため、金額が高額になるのです。
また、管財事件となった場合には、破産手続きが続いている間、手紙が破産管財人宛てに転送されるなど、一定の制限を受けることになります。また、破産者は、破産管財人の調査に協力し、債権者集会にも出席をしなければなりません。
多くの裁判所では、破産を申し立てる人が事業主である場合には破産管財人を選任するという取り扱いをしています。そのため、個人事業主の方が自己破産をする場合には、管財事件となることを想定して準備等をすすめなければなりません。
破産にあたって準備すべきこと
事務所・店舗の明け渡し
事務所や店舗を借りて事業をしていた場合には、どうしても必要がある例外的な場合を除き、速やかに事務所等の明渡しをすすめます。
破産手続きが始まった後の賃料債権は、他の借入金等の債権よりも優先して支払う債権(財団債権)と法律上決められています。
明渡しが遅れると、優先して払わなければならない賃料債権がどんどん増えて、他の債権者に配当する財産が減ってしまいます。
従業員の退職手続き
自己破産をする場合には、通常は廃業をすることになりますので、従業員の雇用を続ける意味がなくなってしまうことが多くあります。破産手続きが開始された後の給料債権は、他の債権よりも優先して支払う債権(財団債権)とされていますので、他の債権者へ配当する財産が減ってしまいます。
ですから、破産手続きの申立て前であっても閉店や廃業する時に解雇手続きをすることが一般的です。
ただし、破産管財人が仕事をすすめる上で、全部または一部の従業員にそのまま働いてもらったままの方がよいこともあります。たとえば、在庫商品をできるだけ早く、高額で売却するためには従業員の協力が欠かせないことがあります。このような場合は、解雇予告をするだけにしておくことなどもあります。
また、あわせて、離職票の作成、社会保険の全喪届、健康保険の切り替え等の手続き、源泉徴収票の作成、雇用保険の手続きなどをする必要がある場合もあります。
さらに、未払い賃金や退職金がある場合には、その一部または全部が優先して支払われる債権(財団債権)となること(破産法149条)、独立行政法人労働者健康福祉機構の立替払い制度があることなどの情報を伝え、混乱を抑える必要がある場合もあります。
破産管財人への引き継ぎ準備
破産手続開始後は、財産や必要書類を破産管財人に引き継ぐ必要がありますのでそのための準備をする必要があります。
してはいけないこと
否認権の対象・免責不許可事由となる行為
財産隠しをしたり、一部の債権者に対してのみ支払いをしたりなど、否認権の対象または免責不許可事由に当たる行為をしてはいけません。
このような行為をしてしまうと、自分が不利益を受けるだけではなく、相手方にも迷惑がかかることがあります。
預貯金を下ろす前に破産予定であることを伝えること
預金を下ろす前に金融機関に破産予定であることを知らせると、口座が凍結され、預金と借入金が相殺されてしまいます。
安易に破産予定であることを知らせてしまうと、当面の生活費や破産手続きに必要な資金の工面にも困る場合がありますので注意が必要です。
税務署に破産予定であることを知らせること
破産手続きが開始される前に税務署に破産予定であることを知らせてしまうと、財産に対して租税滞納処分をされてしまうことがあります。
財産の売却は慎重に
破産手続きの開始前にも財産を処分することは禁止されていませんが、使途の分からない処分や、不当な価格での処分は、財産隠し等として疑われ、否認権の対象となったり、免責不許可事由と判断されたりしてしまうおそれがありますので注意が必要です。
たとえば、在庫である生鮮食品など、すぐに処分しなければならない財産がある場合には、不当な処分と疑われないように、多くの業者から見積もりを取ってなるべく高く売る、写真等で財産の状況を記録しておくなどの準備が必要です。